■第70話 アキが出発する日
アキが出発する日。
夏休みに入るタイミングで少し早目に現地入りして、少し環境に慣らしたいと
アキが言い出し、予定より早目の出発となっていた。
家族全員とモチヅキ家一同が、空港にアキを見送りに来ていた。
心配そうな面持ちの見送り一同とは対照的に、アキは清々しい表情をしている。
アキは、背中まであった長い髪の毛を肩までバッサリ切っていた。
その姿は、背筋をピンと伸ばし胸を張って、その口許にはしっかりと笑みを
たたえている。
それはアキの強い決心を示すかのように、凛としてどこか気高い感じさえ
していた。
ナツが不安気に背中を丸め、ぽろぽろと涙をこぼす。
そしてアキの手を両手でしっかり掴み、中々離そうとしない。
アキが目を細めて、そんなナツを見つめる。
『くれぐれも、気を付けてね・・・。』
不安で不安で手を離すことが出来ない、ナツ。
『うん。』 アキが微笑む。
『がんばってね。 ぁ・・・ でもあんまり頑張りすぎないでね。』
『うん。』
『ちゃんと食べなきゃダメだよ。 好き嫌いしないでね。』
『分かってる。』
『怖いトコに近付いちゃダメだよ。
すぐ誰でも信用して着いてっちゃダメだよ!』
『分かってるってば~。』
『いつでも・・・ 帰って来て・・・。』
『・・・それはダメ。』
アキが笑う。
『甘えられないトコに行くんだから~・・・』
すると、ナツが抱き付いた。
アキがナツの背中に手をまわし、やさしくやさしく撫でる。
『今なら分かるよ、ナツのやさしさが・・・
色々ごめんね、今までありがとね・・・
私の、半分・・・
大切な、半分・・・
ナツぅ・・・
・・・私、行ってくるね。』
そう言うと、アキは笑顔で大きく手を振って搭乗口に消えて行った。
最後まで、アキは泣かなかった。
ナツは両手で顔を覆って、泣きじゃくっていた。
そんなナツの肩をダイスケがやさしく笑いながら、支えていた。
アキは、最後にアサヒに会いに行った日のことを思い返していた。
それは、アキとナツがケンカしてすぐの事。
ナツがアキにまっすぐ『アサヒ先輩が好き』と打ち明けてすぐの事。
アキがやわらかく微笑みながらゆっくり話しはじめる。
『ナツのこと、宜しくお願いします。
アノ子、きっと・・・ 私のこと気にして、遠慮して、
きっと、先輩と気持ちが通じ合ってるって分かってからも
先に進むこと、どうしても拒むと思うんです。
でも、それは先輩がちゃんと言って聞かせてあげて下さい。
”こそこそする必要はない ”って
”正々堂々としてていい”って
アノ子、きっと、次はそれを悩むはずだから・・・』
ナツを懸命に思い遣るアキを、アサヒはじっと見ていた。
アキのやさしさが痛いほど胸に突き上げる。
『分かった。 ありがとう・・・。』 アサヒが小さく呟く。
すると、アキが最後に思い出したように少し笑いながら言った。
『私、動物全般大っ嫌いで・・・
カタツムリなんて見るのも嫌なんです、ほんとは。』
『じゃあ。』 と手を振って去ってゆくアキの凛とした後ろ姿を、
アサヒはずっと見つめていた。




