■第7話 アキの恋
『ねぇ、ナツぅ・・・。』
自室の机に向かい宿題をしていたアキが、ナツに小さく話し掛ける。
その声色は、どこか遠慮がちで、しかし ”どうしたの? ”と聞き返してほしい
感じのそれで。
『んー?』 上段ベッドでうつ伏せになり、ポータブルゲーム機に夢中なナツ。
宿題中のアキに配慮して、音は出さずにプレイしている。
一言発するとまたすぐゲームに戻り、たまに舌打ちをしながら画面内の
モンスターを退治するために親指でコントローラーのボタン連打に必死だ。
少し経ってもアキが二の句を継がないので、一旦ゲームをポーズして、
ベッド柵から顔をひょっこり出し『どした? アキ。』
ナツから再度、声を掛けた。
しかし、なかなか話し出さない、ふんわりロングヘアの華奢な背中。
机の宿題に目を落としたまま、その背中は微動だにしない。
掴んだシャープペンシルの手も止まり、文字を書く代わりに無意味にコツコツと
ノックしてノートに黒点を付けているだけで。
ナツは嫌な予感を察し、ベッド上段から梯子も使わず慌てて飛び降りる。
背中を向け俯いたままのアキの肩に手を置いて、後ろからその顔を覗き込んだ。
『・・・イジメられた?!』
眉間にシワを寄せ、必死の形相で問い掛ける。
思わずアキの細い肩においた日焼けした手に力が入り、指が食い込んだ。
すると、思ってもいなかったその反応に、アキが肩をすくめクスクス笑った。
『ちがうちが~う・・・
・・・そうじゃなくてねぇ・・・。』
少し頬を染め、弱々しく目線を落とした。
そこは、やはり双子。その表情で、すぐナツには分かった。
『えっ?! カッコイイ人でもいたのっ?!』
ナツは机に向いたアキの膝に手を掛けると、時計回りに90°イスのキャスターを
廻し上半身を屈めた自分と向き合う形にする。 互いの目線の高さが合った。
『誰? どこ? 同じクラス?? なんて人??』
ナツが目をキラキラさせ、自分のことのように嬉しそうにはしゃいでいる。
顔を近付け、矢継ぎ早な質問が中々やまない。
赤い顔を両手で半分隠しクスクス笑うアキが、その ”想う人 ”の顔を思い浮かべ
ながら目を細め嬉しそうに言った。
『同じ図書委員の、先輩なの・・・。』
『どんな人?? ねえ、カッコイイ??』
アキがひとこと返すと、それにかぶる勢いでナツが質問を続ける。
笑いが治まらないアキがなんとか絞り出すように、言った。
『なんかね・・・ すごーい、やさしい顔で笑う人・・・。』
『そうなんだー・・・。』 ナツが心から嬉しそうに、目を細める。
アキが嬉しいと、ナツも嬉しかった。
アキが楽しいと、ナツも楽しかった。
アキが哀しいのは心底、嫌だった。
アキが泣くのは、我慢できなかった。
アキには、いつも笑っていてほしかった。
ナツはそう思って、16年間生きてきたのだった。




