■第66話 大事なこと
アキが自宅に帰ると、すでにナツが部屋にいた。
ドアを開けると互いに目が合い、思わず同時に逸らす。
部屋に入ることが出来ずに沓摺に留まるアキ。俯いて口をつぐんでいる。
すると、ナツが座っていたイスから立ち上がり、アキをまっすぐ見つめた。
『アキ・・・ 話したいことがあるの。』
足元に目を落としていたアキが、ゆっくり顔を上げる。
そしてナツをまっすぐ見つめ返し、コクリ頷いた。
2段ベッドの下段、アキのそれにふたり並んで腰掛ける。
暫し、居心地悪い無言の時間が流れた。
壁掛け時計の秒針だけが、静かな室内に音を響かせている。
『・・・今、まで・・・ ほんと、ごめんね・・・。』
発したその言葉は、もう涙声で、つまって、苦しそうで。
ナツがぽろぽろ涙をこぼしながら、アキに言う。
『あたし、ほんと・・・バカだから、ぜんぜん・・・
アキの、気持ちも考えないで、もうほんと・・・バカみたい・・・
昨日、アキに言われるまで、ぜんぜん・・・
どれだけアキに、酷いことしてるか・・・ 気付かなかった・・・。』
ナツがしゃくり上げて泣いている。
細い肩が不規則に上下して、強張った喉元が苦しげに詰まる。
対照的にアキは、ただ黙って静かにナツの言葉を聞いていた。
『あたし・・・ アキが笑ってるの見るのが、すごい、好きで・・・
アキが楽しそうなのが、すごい、嬉しくて・・・
こんなの、ただの言い訳にしか聞こえないかもしれないけど
でも・・・
これだけは、ほんとに、ほんとに・・・
アキが嬉しそうなの見るの、嬉しかったんだ・・・』
言葉の端々に涙でつまって、しゃくり上げる声が漏れる。
しかし懸命に、ナツは自分の本当の気持ちをアキにまっすぐ伝える。
『でも。 もう、あたし・・・ 変な遠慮とか、しない・・・
なんでも全力でやる。 アキと対等に、なんでも、全部・・・。』
そして、真っ赤な目のナツがアキをまっすぐ見て言った。
『あたしね・・・ アサヒ先輩のことが、好きなの。』
すると、アキがやわらかく微笑んだ。
どこか寂しげに。どこか哀しげに。そして、どこか安心したように。
スカートのポケットからハンカチを出すとナツの頬に伝う涙をそっと押さえる。
『もうひとつ。 大事なことに気付いてないよ、ナツは・・・
私だって、ナツが笑ってるのが好きだし、
ナツが楽しそうなのが好きだし、嬉しそうなのが好きだよ。
ナツが悲しいときは、私が一緒に泣きたかったよ・・・
もう、やめようね。 変な遠慮も、我慢も。
だって、私たちは半分なんだから・・・。』
アキがナツの手をにぎった。
同じ大きさで同じ温度のその手と手は、まるでひとつかの様にしっかり
繋がれていた。




