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■第65話 アキの気持ち



 

 

放課後、2-Bのクラス出入口にダイスケの姿があった。

 

 

 

心配したダイスケは、部活を休んでアキのクラスに来ていた。


戸口に手を掛け少し遠慮がちに室内を覗き込み、アキの姿を探す。

すると、アキはクラスメイトとなにやら話しながらやわらかい笑顔を

向けている。

しかしそれは心からの笑顔ではないことぐらい、ダイスケには分かっていた。


『アキ。』 軽く手を上げてその名を呼び掛けると、そっと顔を上げたアキは

まるでダイスケがやって来るのを分かっていたかのように、やさしく微笑んだ。

 

 

 

ふたり、家路へ向かう。


ダイスケは部活へ行かずに、アキはアサヒを待たずに。

まだ陽も高い時間に帰るのなんて、互いに久しぶりだった。

 

 

 

 『アキ・・・ なにがあったの?』

 

 

 

ダイスケがどこか遠慮がちに話し始める。

アキの顔を横目で盗み見るそれは、心配で仕方ない感じで。

 

 

すると、アキが肩をすくめてクスっと笑った。

目を細めて眩しそうに。

悲しそうで寂しそうで、でもどこかスッキリした面持ちで。

 

 

 

 『ナツとねー・・・ ケンカしちゃった。


  17年間で、はじめて。 生まれて、はじめて・・・。』

 

 

 

『そっか・・・。』 ダイスケの声が小さく足元に落ちる。

予想していた通りの展開に、それを回避する手助けが出来なかった自分を

不甲斐なく思う。

 

 

 

 『ナツがね、今までいーっぱい私のために我慢してくれてたの、


  私、知ってたの・・・

 

 

  最初は・・・ 子供の頃は、


  その意味もあんまり分かんなくて、ただ不思議に思ってたんだけど。

 

 

  でもね。 だんだん、ほら・・・ 気付くじゃない?


  わざと手加減したりされてるのって・・・』

 

 

 

『ん・・・。』 ダイスケは俯いたまま。

 

 

 

 『でもさー・・・


  ナツは・・・ ナツには、悪気がまったく無いでしょ・・・


  ”アキのために、アキのために ”、って

 

 

  ナツってそうゆう子でしょ・・・』

 

 

 

アキが目を細め、何処を見るでもなく遠くを見つめている。

その顔は、あまりにやさしくて、あまりに哀しい。

 

 

 

 『言えないよねぇー・・・ こっちも

 

 

  ナツが今まで一生懸命私のためって思ってしてくれてることが


  私にとっては一番ツラい、なんて・・・ 言えないよぉ。』

 

 

 

大きく瞬きをひとつしたその瞳から、大粒の涙がこぼれた。

所々つまらせながら懸命に言葉を紡ぐアキの、ナツを想う気持ちが刺さる

ように痛い。

 

 

 

 『だから・・・


  いつか、ナツが・・・ 気付いてくれたらいいなぁって・・・

 

 

  私から直接言うときは、それは、


  ナツをどん底まで突き落とすことになるから


  ・・・17年間のナツを、全否定しちゃうことになるから、


  だから・・・ 私からは絶対言いたくなかったんだけどね・・・』

 

 

 

アキの足が止まる。


まだ陽が眩しい住宅街の垣根に、こぼれるほど咲き誇る紫陽花の花が

目に入った。

苦しげにアキが目を落とす。

俯いたアキの表情は、垂れた長い髪の毛で覆われて見えないけれど、

小さく震える肩がその17年間の苦しみをいとも簡単にダイスケに知らしめる。

 

 

 

 『 ”今回だけは、無理かもしれない ”って、


  ナツ・・・ 私に泣きながら言ったの・・・

 

 

  先輩のミサンガを、必死にかばって・・・

 

 

  ナツが・・・ アノ子が泣いたんだよ?


  絶対泣かないナツが、泣きそうな顔さえ見せないナツが・・・

 

 

  私・・・ なんか、悔しくなっちゃって・・・

 

 

  先輩をとられる事も、もちろん悔しいけど、


  先輩に、ナツをとられちゃう、って・・・


  絶対泣かないナツをあんな風にするほど、先輩は想われてるんだって・・・

 

 

  なんか、大事なものを一気にふたつ失くしちゃうような気がして・・・

 

 

  ナツは、私の半分なのに・・・


  ナツは今まで私のこと一番優先して気にしてくれてたのに・・・。』

 

 

 

ダイスケがアキの肩に手を置いた。その手もまた微かに震えている。

そして、そっとその肩を撫でた。

 

 

 

 『・・・どうして?


  どうして、そうゆうの僕に言ってくれなかったの・・・?


  僕だって、ナツには敵わないけどアキの幼馴染みだよ・・・?』

 

 

 

 『ダイちゃんは、ナツのことが好きだから・・・


  板挟みになっちゃうじゃない、私の本音を聞いちゃったら。』

 

 

 

アキが泣きはらした真っ赤な目で、やさしく口許を綻ばす。

 

 

 

 『それにきっと、ダイちゃんが私の本音知ったら、


  私のことナツにストレートに、ズバっと言っちゃうでしょ・・・?

 

 

  でもね、ナツの性格ならダイちゃんに言われても素直に聞かないで


  突っぱねたと思うの・・・

 

 

  結局は、ナツが気付くか・・・ 最悪、私が言うかしか無かったのよ。』

 

 

 

そのやわらかいアキの横顔にダイスケがかぶりを振る。


『ごめんね、アキ・・・。』 長い間ひとり悩み苦しんだアキを思って、

胸が痛んだ。


こんなに近くにいたのに、本当のアキを思い遣ってあげられなかった。

ナツのことばかり気にして、アキの本音に気付いてあげられなかった。

 

 

『なんでダイちゃんが謝るの~?』 アキがクスクス笑う。

 

 

そして、

 

 

 

 『ナツ・・・ ちゃんと先輩に気持ち伝えられたかな・・・?


  アノ子、大事なトコで結構怖気づくからなぁ・・・。』

 

 

 

その一言に、ダイスケが目を見張る。

 

 

 

 『私ね・・・ 正式にフラれちゃったの、先輩に。』

 

 

 

そう言って、アキは大きく深呼吸した。

その横顔は凛としていて、あまりにキレイで、ダイスケは黙って見つめること

しか出来なかった。

 

 


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