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■第59話 4人の帰り道



 

 

アサヒが無事、退院した。

 

 

 

松葉杖でヨロヨロと覚束ない感じで歩くアサヒは、勿論まだ走れはしないけれど

毎日部活に顔を出していた。

グラウンド脇に立って、部員の走る様子を眺め、アドバイスしたり褒めたり時に

は注意したり、今自分が出来る最大限のことを部長として懸命に行っていた。

 

 

そんなアサヒの後方グラウンド出入口には、変わらずにアキの姿があった。

体の前で両手でカバンを持ち、部活が終わるまでの時間ずっと佇んでいた。


マネージャーのダイスケがいるベンチ付近に行こうと思えば行けなくもないのに

決してアキはそこへ近付こうとはしなかった。

意図的ではないものの、陸上部の ”見えない壁 ”があるように感じていたのだった。

 

 

ナツの右腕に2本ミサンガが結ばれている事に気付て以来、アキは今までにも

増してアサヒの傍を片時も離れたがらなくなっていた。


退院するまで毎日病院に通ったのは勿論のこと、学校でも長い休み時間には

アサヒの教室へ顔を出し、自分に何か出来ることがないか訊いた。


その度、アサヒはどこか困ったような顔で笑い『大丈夫だよ。』 と繰り返した。

始業のチャイムが鳴り響きアキが自分の教室に帰って行く後ろ姿を、アサヒは

哀しげな表情で見つめていた。


深い溜息が、無意識のうちに零れ落ちた。

 

 

アキがどこか元気がないのを誰よりも早く気付いて、そして心苦しく思っている

のはナツだった。


必死にいつものやわらかい微笑みを作ってはいるが、どこか無理があるそれに

ナツが気付かない訳はない。

 

 

 

 

  (あたしのせいかもしれない・・・。)

 

 

 

 

ナツの心の奥底にある後ろめたい想いが、アキを苦しめているのかもしれない。

アサヒがアキになにか言ったのかどうかは分からない。


でも、最近のアサヒと自分の ”距離 ”を考えると、それはアキを哀しませるには

充分だった。

 

 

 

 

  (アキに、先輩のことが好きだって気付かれてたらどうしよう・・・。)

 

 

 

 

ナツも平静を装ってはいるが、その胸は色んな想いに張り裂けそうに痛んだ。

そんなナツを、ダイスケが途方に暮れたような目で見つめていた。

 

 

 

 

 

とある部活終わり。


いつもアサヒとアキ、ふたりで帰る夕暮れの帰り道。

アキがアサヒのカバンを持ち、松葉杖のスピードに合わせて進むいつもの

帰り道なはずが突然アキが振り返って言った。

 

 

 

 『たまには、みんなで一緒に帰ろうよ!』

 

 

 

それはナツとダイスケに向けた言葉だった。


面食らう一同。

4人の間に流れた微妙な空気に、アサヒもナツも、そしてダイスケもみな一様に

言葉を失った。


なにも言えず固まるナツを横目で見て、ダイスケがすかさず口を開く。

 

 

 

 『そんな、いいよ・・・ ふたりで帰りなよ。』

 

 

 

しかし、そんな声も聞かずにアキはまっすぐナツを見て言う。

 

 

 

 『ナツ、いいよね? みんなで帰りたいよね?』

 

 

 

畳み掛けるようなその言葉と射るような視線に、ナツが目を伏せる。


一瞬アサヒに目線を向けると、哀しそうな顔をしているのが目に入る。

慌てて目を逸らし、ぎゅっと目をつぶったナツ。

 

 

 

 『俺、松葉杖だから歩くの遅いからさ・・・


  ふたりに迷惑かかるから、いいよ、マジで・・・。』

 

 

 

アサヒがなんとかアキの案を回避しようとするが、アキは頑としてそれを

受け入れない。


その場の重苦しい空気に、アキ以外の3人は居心地の悪さを感じ俯いていた。

アキだけが感情が読み取れない表情をしていた。

 

 

アサヒの歩くスピードに合わせて、アキがその隣を歩く。

アサヒのカバンを持ち、腕を支え、時にはその背中をそっと手で支えて。

アサヒに密着したその姿は、まるで見せつけるかのようで。


そんなふたりの後方を、重い足取りで歩くナツとダイスケ。

 

 

ナツはずっと下を向いて歩き、極力アサヒ達の姿が視界に入らないように

している。

隣りを歩くダイスケがそっとナツの腕を取り、自分の後方へ促した。

すると背の高いダイスケに妨げられ目に入るのは痩せたその背中だけになった。

 

 

アキがこんな事を言い出した理由を思ってナツの胸は痛んだ。

本来、こんな意地悪みたいなことをするアキではないのだ。


それだけ追い詰められている。

追い詰めている。

自分が。

自分の中途半端な想いが。

 

 

諦めなきゃいけない。

アサヒへの想いは諦めなきゃ・・・

諦められる・・・

諦められる・・・のか・・・?

 

 

その時、アサヒが小さく後ろを振り返った。


その目は罪悪感に苛まれ、まるで泣き出しそうな幼い子供のようだった。

ダイスケに阻まれナツの姿は確認できない代わりに、嫌悪感剥き出しの

視線がアサヒを射抜いていた。

ダイスケが、アサヒを冷酷な目で睨んでいた。

 

 

後方を気にして振り返るアサヒを見つめるアキは、ぎゅっと口をつぐみ今にも

零れそうな涙を寸でのところで堪え、アサヒの腕にぎゅっとしがみついた。

 

 

 

この腕が誰にも取られないよう、何処にも行かないよう、

必死にしがみついていた。

 

 


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