■第57話 ピアノ発表会
ピアノ発表会の当日。
小さなアキとナツは、お揃いのピンク色の花柄オーガンジードレスを着て
ふたり、眉上の一直線にそろえた前髪が可愛らしいおかっぱ頭。
ドレスに合わせた大きめのリボンがその頭の上に存在感を表している。
双子のセオリー通りのなにもかもお揃いスタイルで、正直、両親ですら
どちらがアキでどちらがナツか分からなかった。
それをふたり共、どこか愉しんでいるようだった。
発表会を行ういつもの教室に着くと、途端にアキがソワソワと落ち着きなく
不安気な表情をナツへ向ける。
すでに泣きべそをかいて、薄い唇はぎゅっとつぐみ尖らせて。
『アキー・・・ だいじょうぶだよー・・・。』
その場にしゃがみ込んで膝を抱えるアキに、ナツが同じようにしゃがみ
顔を覗き込んで言う。
頭をふるふると横に振り、親指を隠すように小さな手を握りしめて拳を
つくるアキは『どうしよう。』と延々繰り返す。
アキの心細そうな表情に、ナツの小さな胸もチクチク痛みを伴った。
すると、ナツにある案が浮かんだ。
パッと見開き明るい目をアキに向けると、キラキラした表情で言う。
『アキー・・・ 1等になりたいんだよね?』
足元のピンク色のキッズフォーマルシューズに目線を落としているアキが、
顔を上げる。
そして再度俯くと、靴のバックルに付いた大きな花を指先で弾いてうな垂れた。
『なりたいけど・・・ 無理だもん・・・。』
『無理じゃないよ!』 ナツが満面の笑みで、ニヤッと口角を上げた。
『あたしが、ぜったい。 アキを1等にするからっ!』
発表会がはじまった。
ひとりまたひとりと、ピアノ椅子に緊張の面持ちでぎこちなく座り、
懸命にメロディーを奏でる。
演奏の順番を待つ列には、アキ・ナツそしてダイスケの姿もあった。
アキは5番目、ナツは6番目、ダイスケはその次の7番目の演奏順だった。
ドアの手前で小さい肩を少し強張らせて並ぶ子供たち。
自分の番になればこのドアを開けてピアノ前に立ち、名前と曲名を元気に
発表して演奏をはじめるのだ。
アキの前、4番目の子供が演奏をはじめた。
子供用タキシードに蝶ネクタイのダイスケが、ソワソワと緊張しながらふと
目を遣ると次はアキなはずなのに、そこにはナツが立っている。
『・・・ナツ?』 小さく呼び掛けたダイスケを、『しっ!』 と口許に
人差し指を立てたピンクドレスのおかっぱ頭。
傍から見れば、それはアキに見えるのだろう。
しかし、ダイスケだけはどんなにふたりが同じ髪型で同じ服装でも、
見分ける事が出来た。
そっと6番目に並ぶアキの顔を覗く。
その顔は、哀しそうに俯いているように見えた気がした。
ダイスケにはアキが、ナツの ”名案 ”に喜んでいるようには見えない気が
していた。
5番目のアキの番が来て、ピアノ演奏がはじまった。
いつものナツの、仔犬が駆け回るような跳ねる弾き方はしていない。
アキの大人しい基本に忠実なメロディーが教室を包み、それは大きな拍手で
締め括られた。
それをドア前で聴いている本物のアキ。
大きな目からこぼれそうな涙を必死に我慢している小さな背中に、後ろから
ダイスケがそっと手を当てた。
そして、小声で呟く。
『だいじょうぶだよ。 みんな気付いてないよ・・・。』
発表会が終了し、両親とアキ・ナツ、そしてモチヅキ家も一緒に
ファミリーレストランへ向かった。
テーブルに着くと隣のナツがメニューを開いて、アキに見せる。
『アキのお祝いだから、ハンバーグにする~?』
ニコニコと嬉しそうなナツ。
テーブル下の両足はご機嫌にブラブラと揺れている。
そのナツの首には ”3等賞 ”と書かれた手作りの首飾りが下がっている。
そしてアキの胸には、金色の ”1等賞 ”が揺れていた。
アキが目を伏せ、口を真一文字につぐみ何も喋らない理由が、
その頃の幼いナツには分からなかった。
ダイスケが、そんなふたりを黙って見ていた。




