■第56話 ピアノ教室
小学校にあがってすぐ、アキとナツはピアノ教室に通いはじめた。
幼馴染みのダイスケも何故か行きたいと言い出し、3人仲良く同じお稽古
バッグを手に週に1回そのクラスへ向かった。
ピアノをはじめた当初から一番張り切っていたのはナツだった。
楽しくて楽しくて仕方ない風で、仔犬のようにコロコロと鍵盤の上を
はしゃぐナツの指先をアキは嬉しそうに見ていた。
じっとしている事が出来ずに駆け回るようなナツのメロディーを聴くことを、
アキが誰よりも楽しみ、そして喜んでいた。
なんでも要領よく器用にこなしてゆくナツと、要領は然程良くないが
何事もじっくりと進めるスロースターターのアキ。
子供ながらに双子でもこうも違うものかと、アキは感じていた。
まったく違うタイプのナツが、自慢だった。
ナツと一緒に通うピアノ教室が楽しくて仕方なかった。
ピアノの発表会が近付いたある日。
発表会と言っても大きな会場で行う訳ではなく、いつもの教室で家族を
呼んで行うピアノ教室版参観日のようなものだった。
自宅リビングにあるピアノに向かい、発表曲を懸命に練習するアキ。
ナツはソファーに寝転がってテレビアニメを見ている。
いつも同じ所でつまづくアキが、ガックリとうな垂れ小さな背中を丸めて
いるのが目に入った。 ナツが駆け寄って、その箇所を弾いてみる。
『ココは、こうやったらいいんじゃな~い?』
ナツの言うとおりに弾くも、どうも指がうまく追いつかない。
泣きべそをかきながら小さい手を広げ、鍵盤を叩くアキ。
『出来ないよ・・・ どうしよう、もうすぐ発表会なのに・・・。』
アキがぽろぽろ泣き出した。
ナツが慌ててティッシュを取りに走り、アキの頬の雫をおさえる。
『アキ、一緒にやろう?』 ピアノ椅子にナツとアキふたりでぴったり
くっ付いて座り何度も何度も繰り返し、アキがつまづく箇所を練習した。
『だいじょうぶだよ、アキ。 だいじょうぶ、だいじょうぶ・・・。』
ナツはにっこり笑って、アキの練習にいつまでも付き合った。




