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■第54話 本音



 

 

 『先輩・・・、 ナツ・・・。』

 

 

静かな病院の廊下でいつまでも手をつなぎ合っているアサヒとナツへ、

ダイスケが声を掛けた。

 

 

突然のダイスケの姿に、ふたりは慌てて手を離す。

寄り添っていた互いの体から気まずそうに離れると、どこか寂しげに

一瞬目線を向け合ってそして、そっと目を伏せた。

 

 

恐ろしく居心地の悪い、まるで押し潰されそうなその3人の無言の空気。

遠く待合室の誰も見ていないテレビ音声が、流れ聴こえる。

 

 

『見舞いに来てくれたの?』 慌ててアサヒはダイスケが手に持つ

クリアケースに目を遣ると


『ここ数日の、部員のタイム一覧表持って来ました。』 と答えつつ、

ダイスケはナツを見た。

 

 

 

 『一緒に来ようと思ってナツんち行ったら、


  もう出掛けたってオバサンに言われて・・・ ここだったんだね。』

 

 

 

感情が読み切れない表情のダイスケがなんだか不気味で、ナツは俯いた。


ダイスケはクリアケースを掴む手をまっすぐ差し出すと、アサヒのその手首に

先日まで結ばれていたミサンガが無いことに気付く。

そして無意識のうちに、目線は水平にスライドしてアサヒの隣、不自然な間隔を

あけて立つナツの元へ走る。

 

 

 

 ナツの右手首に、それが2本。

 

 

 

じっとそのミサンガを見ていた。

やり場のない想いを握り潰すようなダイスケの拳は、力が入りすぎて指が白くなっていた。

 

 

 

 

 

病院からの帰り道。


ダイスケはアサヒとナツが寄り添う姿を見たはずなのに、なにも言わない。

まるで身の置き場ない延々と続くようなその道のりを、ナツもまた黙って

歩いていた。

 

 

 

 『僕は・・・ 応援するから。』

 

 

 

突然ダイスケが静かに口を開いた。

その顔はまっすぐ向いたまま。


車道をせわしなく過ぎゆく車の走行音に、半ば吸収されて消えかかる。

 

 

『え?』 ナツが聞き返すと、再び呟いた。

 

 

 

 『僕は、ナツの味方だから・・・。』

 

 

 

ダイスケのその迷いない声色に、ナツが泣きそうな顔をして俯く。


そう簡単な問題ではないのだ。

相手は、アキで。 双子の姉妹の、アキで。

これが他人だったらどんなにいいだろうと、心の底から思っていた。

 

 

ナツが悲痛な面持ちで、息苦しそうにダイスケに目を向ける。

 

 

 

 『どうしたらいいか、分かんないの・・・。』

 

 

 

誰か答えを教えてほしい。

迷路から抜け出す道を示してほしい。


どうしたら、アキを泣かせずに済むのかを。

アキを泣かせたくない。 アキの哀しむ顔を見たくない。

 

 

ダイスケが立ち止まり、ナツに向き直りまっすぐ見つめる。

 

 

 

 『本音は・・・ 


  アキを泣かせたとしても、ほしいものなんでしょ?


  諦められないものなんでしょ? 


  それが・・・ ナツの本心でしょ・・・?』

 

 

 

右手首のミサンガをそっと胸に引き寄せて抱きしめるように包み込むと、

今にも涙の雫をこぼしそうにきつく口を結ぶナツ。

 

 

 

 『フジエダ先輩が、好きなんでしょ・・・?』

 

 

 

ダイスケのストレートな問いに、はじめてナツが誤魔化さずに返事をした。

 

 

 

 

 

  『うん・・・ 


   あたし・・・ 先輩のことが、好き・・・。』

 

 

 

 

しかし、すぐさまダイスケにすがるように呟く。

 

 

 

 『・・・でも、


  でも。 アキを泣かせちゃうよ・・・ 嫌われちゃう。


  どうしよう・・・ どうしたらいいの・・・?』

 

 

 

必死の形相でダイスケに掴みかかる。

ナツの冷たい手の感触が、ダイスケの二の腕に伝わる。 

小刻みに震えたその小さい手。

 

 

 

 『こればっかりは、もう。仕方ないじゃん・・・ 理屈じゃないでしょ。』

 

 

 『だって・・・ あたしの半分なんだよ?


  アキはあたしの半分なんだもん。 


  泣かせたくないのなんか当然でしょ・・・。』

 

 

 

 

すると、ダイスケは至極冷静にポツリ呟いた。

 

 

 

 『それ、アキも同じように思ってんの・・・? ナツのこと。』

 

 

 

ぎゅっとダイスケの腕を掴んでいたナツの手から、一瞬力が抜ける。

 

 

 

 『今までだってずっと、ナツが我慢してきたこと。


  アキが気付いてないはずないじゃん・・・ 


  それでもアキはそのまま・・・ 甘えたままだったじゃん・・・。』

 

 

 

 『いや、それは・・・ あたしが勝手にしてただけだし・・・。』

 

アキをかばおうとダイスケの言葉を否定しようと、必死なナツ。

小さく首を横に振って、それが間違いであるよう祈るように。願うように。

 

 

 

ダイスケが溜息を落とした。

そして、毅然として言った。

 

 

 

 『アキはアキ、ナツはナツでしょ。


  アキのこと言い訳にしてないで、ちゃんと向き合いなよ。』

 

 


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