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■第48話 ミサンガ



 

 

夕方になり、散々笑ったみんなは病室を引き上げようと帰り支度を

はじめていた。

アサヒに『お大事に。』 と声を掛け、一人また一人と帰ってゆく後ろ姿に

ナツが続こうとした。

 

 

『ぁ。オノデラ・・・ ちょっと残ってくれる?』 アサヒに言われ、

ナツが『え?』 小首を傾げ立ち止まる。

 

 

ナツ以外の部員はみな帰って行った。


さっきまでうるさいくらいだった病室が急に静けさに包まれる。

6人部屋のそこは、他の患者全員カーテンでベット周りを覆い、

イヤフォンを片耳に入れて静かにテレビを見ている。

 

 

 

『カーテン引いて。』ナツは言われるままカーテンでベッド周り3面を覆った。


パイプイスを取り出し、ナツに座るよう促す。

ペコリとわずかに頭を下げそれに座ると、ナツはなんだか急なふたりだけの

空間に緊張して居心地悪そうに、少し背中を丸めて肩をすくめた。

 

 

すると、アサヒが自分の右腕をナツへ突き出す。

 

 

 

 『コレ、はずしてくんない?』

 

 

 

それは、アサヒの右手首に固く結んだミサンガ。

その一言にアサヒが大会に出場出来ないと悟るナツ。

 

 

暫しその右手首を見つめ、ナツがコクリ、言葉なく俯く。

そして、固結びしたそれをほどこうと目を落とすが、泣きそうに込み上げる

熱いものに指先が震えて中々ほどけない。


やっとアサヒの手首からそれをはずすと、ナツがそっと手渡す。

 

 

すると、アサヒがなにも言わずナツの右手首を掴んだ。

そして、すでに巻き付けてあるミサンガの上に、更に自分のそれを

結びはじめる。

 

 

 

 『お前に、託す・・・。』

 

 

 

小さくポツリ呟き、手首からナツへ目線を上げた。

 

 

 

 『大会、頑張れ。 俺の分まで、お前に託すから・・・。』

 

 

 

そう言うと、あの陽だまりのような顔でやさしく笑ったアサヒ。


そして、大きな手をにぎって拳をつくると、ナツの前に出した。

ナツが2本のミサンガが巻き付いた少し震える右手を拳にして、

アサヒのそれにコツンとぶつける。


グータッチした、その拳と拳。

 

 

 

ナツが思わず下を向いた。


アサヒの悔しさ、無念さ、後悔、色々な想いを想像して胸が張り裂けそうで。

泣きそうで、苦しくて。 

でも一番泣きたいのは自分ではなくアサヒ自身なのだ。

ここで自分が泣くのはただの自己満足に過ぎない。

だから絶対に泣いてはいけない。 泣かない。

 

 

そっと顔をあげると、思いっきり満面の笑みでナツは微笑んだ。

長いまつ毛にほんの僅か雫が光って、それはキラキラと輝き眩しく映す。

 

 

その顔をやさしく見つめて、アサヒはひとりごちた。

 

 

 

 『やっぱ・・・ 全然、違うな・・・。』

 

 

 

胸に込み上がる後ろめたいふたつの想いが、だんだん形を成してきている事に

気付かないフリをするのはもう限界な気がしていた。

 

 

 

 

 

アサヒが笑って言う。 『大会ガンバったら、なんかおごってやるぞ!』

 

 

 

 『え?! あたし・・・ひとり・・・??』

 

 

 

ナツがパイプイスから身を乗り出して声を上げる。 

瞬きは、パチパチとせわしなく。

その反応に、クククと肩を震わせて笑う。

 

 

 

 『そんな何人分もおごるヨユーねえわ。 ・・・なにがいい?』

 

 

 

ナツが眉根をひそめ、顎に手を当ててロダンの ”考える人 ”よろしく真剣に

悩み迷っている様子。

暫く時間をかけ考え抜いて、一言。 『えーっと・・・ じゃぁ、たこ焼き!』

 

 

 

 『いいよ。 じゃぁ、ふたりでたこ焼き食い行こ。』

 

 

 

 

ナツの笑う顔を見ているのがなんだか嬉しくて、ずっとその顔を見ていたくて

アサヒは喉元まで言葉がついて出そうになったが、なんとかグっと飲み込んだ。

 

 

 

 

 

  (まだ、もう少し帰らないで


            ココにいてくれればいいのにな・・・。)

 

 

 

 


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