■第44話 新学期
4月 ナツは2年生になった。
陸上部では、3年のアサヒが新部長、2年のダイスケがチーフマネージャーと
なり新体制が構築されていた。
新1年生部員や女子マネージャーも入部し、旧3年生がいなくなり物寂しく
なった陸上部にもまた新しい風が吹いていた。
新しく初々しい面々に、今までと然程変わらない賑やかな陸上部だった。
アサヒもアキも進級と同時に図書委員ではなくなり、委員会で顔を合わす
ことはなくなったものの、アキは変わらずに毎日アサヒの部活が終わるまで
待ち、一緒に帰っていた。
それは5月の終わりのこと。
グラウンド脇のハナミズキに若葉が開き始め、ヤマボウシによく似た薄桃色の花
がこぼれていた。
いつものキレイなフォームで走り込みをしていたアサヒが、突然グラウンドに
倒れ込んだ。
膝を抱えるように体を丸め、激しい痛みに顔を歪めている。
ジャージの背中に、腰に、グラウンドの砂粒が黄土色の汚れを付ける。
アサヒの名前を叫び、慌てて駆け寄る部員一同。
ダイスケは薬箱を抱えてアサヒの元へ近寄るが、その苦痛に満ちた表情に
すっかり気が動転してしまっている。
アキはグラウンド脇から飛んできて、アサヒの傍らに崩れ落ちオロオロと
取り乱しパニック状態に陥った。
ナツが青ざめ平静を失いそうになるのを必死に堪え、一目散に顧問教師の
元へ駆けた。
慌ててやってきた顧問教師と後輩に両肩を支えられ、アサヒはそのまま
病院へ直行した。
残された部員の顔はみな一様に引き攣り、不安を隠しきれないでいる。
誰一人、声を出せずにその場に立ち竦んでいた。
グラウンドにペタンと崩れ落ち、めそめそ泣き続けるアキ。
制服の紺色ワンピースと水色の靴下が、直で触れる砂土状の土に汚れている。
ナツがそっとアキの二の腕に手をあて、立ち上がらせる。
『ダイジョーブだよ、絶対。ダイジョーブ・・・。』 そう言って、
アキの汚れたスカートのお尻と足の脛の砂を払った。
すると、アキがナツに抱き付いて更に声を上げて泣いた。
ナツの胸にダイレクトに泣き声が共鳴する。
つられて泣きそうになるのを、グッと堪え抱きしめ返した。
ナツの分までアキが泣いているかのように、その後も暫く泣き声は
グラウンドに響いていた。




