■第40話 3月14日
『3月14日は、ふたりで何処か行きたいです・・・。』
事前にアキからリクエストされた、3月14日ホワイトデー。
『いいよ。 じゃぁ、デートしよう。』 アサヒが微笑んで返事をすると、
アキが俯いて口ごもり、更に何か二の句を継ぎたそうに落ち着かない。
『ん?』 顔を覗き込むと、アキが思い詰めたような面持ちで言った。
『私以外に、お返ししないで下さい・・・。』
『え・・・?』 その一言に声を失う。
『いや、それは・・・ だって、それはダメでしょ。お礼しないと・・・』
すると、アキはさめざめと声を忍ばせ泣き出した。
両手で顔を隠し俯くと、長くやわらかい髪の毛が前に垂れて震える肩に
合わせ揺れる。
その姿に困り果てるアサヒ。
自分に好意があっての事だというのは分かる。
分かるけれど・・・
(最近は、泣いてばっかだな・・・。)
なんとか宥めて機嫌をとる。
ホワイトデーデートの話題を大袈裟に膨らませ、やっとのことでアキを鎮めた。
そして、当日。
アキが行きたがっている3月まで開催しているイルミネーション会場で
夜7時に待ち合わせをしていた。
部活は通常どおり参加できるので、放課後、ホワイトデーのお菓子が入った
紙袋片手にアサヒは部室へ向かった。
部活がはじまる前の僅かな時間も、愉しそうに女子トークをしている女子部員に
『おりゃおりゃ~!』 と放るようにお菓子の包みを配ってゆく。
こういう照れくさいのは大の苦手なアサヒ。
一人ずつなにか言葉をかけて渡すなんて、どう考えても出来そうにはなかった。
『投げんな!バカっ』 先輩マネージャーから、いの一番に文句が飛んだ。
『ほいっ。』 最後にナツの頭にパコンと包みをぶつけて、お菓子を渡す。
満面の笑みで『あーざっス。』 と、包みを眺めるナツに、アサヒが言った。
『オノデラー・・・ ちょい、来て。』
『は?』 小首を傾げるナツ。
貰った包みをジャージのポケットに入れて立ち上がり、よく分からないまま
アサヒの背中に続いた。
アサヒは何も言わずに廊下をズンズン進んでゆく。
『どこ行くんスか~?』 訊いてもその背中は振り返らないし、答えない。
無言のまま南棟までやって来た。
以前、階段ダッシュをしたひと気の少ない静かな校舎。
すると、アサヒが立ち止まりポケットに入れた手を差し出した。
『オノデラには。 あん時、2個もらったからさー・・・』
そう言って広げた手の平に現れたのは、3色のミサンガが。
『お前、ボケっとしてっから願掛けだー
夏の大会、がんばんなきゃダメなんだからなー・・・』
途端に照れくさくなってしまって、顔が上げられないアサヒ。
ナツは、アサヒの手の平の上のミサンガを呆然と見つめている。
そして、ガバっと顔を上げると『チョー・・・・・・・・嬉しい。』 と、
慌てて掴み、右手首に結ぼうと左手で必死に試みるが中々ひとりでは結べない。
その歯がゆそうな真剣な眼差しに、クククと笑いアサヒがそれを掴む。
『結んでやっから、手ぇ出しな。』
ナツの日焼けした細い右手首に、アサヒがミサンガを結ぶ。
アサヒの指先が、ほんの少し手首に触れた。
ふと見ると、ナツにミサンガを結ぶアサヒの手首にも、それが。
『色違い?』 ミサンガに目を落とす、ナツ。
思わず、
『ぁ、そうそう。駅前の雑貨屋で売ってたの買っただけだけどな・・・』
(今思えば、超ハズい・・・ 作ったなんてゼッテー言えねぇ・・・)
手首に結んでもらったミサンガ。
目の高さに翳して手首を伸ばしたり返したり、嬉しそうに眺めるナツ。
『ぜっったい頑張ります!大会・・・。』
そう言って、また微笑んで眺めている。
『お前って・・・ 泣かないよな、全然・・・。』
アサヒがナツを見て笑った。
それは陽だまりみたいに、やさしくて温かい表情だった。
嬉しくて嬉しくて、胸が痛くて、苦しくて。
鼻の奥がツンとして、目頭がジンと熱い。
必死に涙を堪えていることは、アサヒに気付かれていないようだった。




