■第38話 切ない痛み
ナツを抱きしめていたダイスケが、そっと体を離す。
両手はやさしくナツのコートの腕を掴んだまま、ナツをまっすぐ見つめた。
『僕にこんなことされても、なんとも思わないんでしょ~?』
小さく笑う、ダイスケ。
『いや・・・ビッ・・クリした・・・。』
かすれた声を絞り出すナツに、ケラケラ笑うと
『ビックリしただけかー・・・』 可笑しそうに体を屈めて笑い続けた。
すると、もう一度ナツをまっすぐ見つめた。
『僕は・・・ ナツの味方だから。
誰がなんと言おうと、どう思おうと。 僕は、ナツの味方だから・・・。』
どこか哀しげに頬を緩めて、ダイスケは続ける。
『だから・・・
泣きたくなった時は、少しは僕に頼ってよ。
ひとりで隠れて泣かないでさ・・・
ナツは、少し人前で泣いた方がいいよ・・・。』
そう言うと、ダイスケはチョコバーを握る片手を上げて軽く振り
『じゃ、また明日。』と自宅へ入って行った。
ナツはたった今起こった事の状況が呑み込めないまま、その見慣れた背中が
玄関ドアの向こうに消えるのを立ち竦んで見ていた。
ダイスケは自室に入り、机の上にカバンを置くと、大切そうに掴んだ
チョコバーを見つめた。
あまり仰々しくなり過ぎないよう、相手に気を使わせ過ぎないよう
考えられた、このバレンタインのチョコレート。
ナツらしかった。
なんでも相手のことを考える、ナツらしかった。
でも、それは自分の気持ちを後回しにするという意味にもなるわけで。
『ビックリした、だけ・・・か・・・。』
肩をすくめて小さく笑った。
ダイスケの胸も、息苦しいほど切ない痛みが生じていた。




