■第36話 ガトーショコラ
部活終わりのアサヒの元へ、アキが嬉しそうに駆け寄った。
可愛らしいピンクの紙袋の取っ手を両手で掴み、頬までピンク色に染めて
それをアサヒへまっすぐ差し出す。
部活動の声もやんだ仄暗く静かな廊下。
ひと気ない校舎奥の階段にふたりで腰掛けた。
膝の上に、もらった紙袋を置き中を覗く。
そこには可愛らしいハート型のピンクの箱の中に、大きなチョコレートケーキ。
透明の袋に入れて、ピンクのリボンで口を止めてある。
ガトーショコラというらしいそのケーキは、本格的でどこか大人びた感じで
正直あまり甘いものが得意ではないアサヒを少し気後れさせた。
『すごいね・・・ ありがとう。』 目を細め笑うアサヒを、アキが覗き込む。
アサヒをじっと見つめる、アキ。
心の中をまるで探るように。
アサヒが思わず目を逸らした。
『コレ、結構ガンバって作ったんですよ・・・。』
アキがどこか寂しげに手元に目を落とし、落ち着きなく指先の爪をはじく。
まるで泣き出しそうなその声色に、アサヒが慌てて顔を覗き込む。
『すげぇ嬉しいよ! ほんと、嬉しい・・・。』 咄嗟に上げた大袈裟な
ほどの言葉は逆に虚しく響いて、静まり返った廊下に木霊した。
しばし、居心地悪い無言の時間に、かける言葉は中空を彷徨う。
すると、
『陸上部の女の子たちからも貰ったんですか・・・?』
アキが俯いたまま、ポツリ小さく呟いた。
『あぁ、うん。義理チョコね。
あと、なんか、感謝チョコとかゆってたかな。』
ナツと部長の遣り取りを思い出し笑いするアサヒ。
なんだか愉しそうに頬を緩める。
『・・・ナツからは・・・? どんな?』
アキから促され、サブバックに入っているナツからのチョコバーを
取り出して見せる。
『日頃のご愛顧に~とかなんとか、ブツブツゆってみんなに渡してたわー。』
アサヒがククク。笑う。
それを横目で見る、アキ。
ひとこと、静かに口を開いた。
『固めて冷やすだけの、簡単なやつですよね。 それ・・・。』
その冷たい声色がアサヒの胸に小さな棘となって刺さった。
ゆっくり、アキに目線を向ける。
なんだか、哀しかった。
アキからそんな言葉を聞きたくなかった。
俯くアキのその目は、仄暗くまるで感情が無かった。
なんだか、
なんだか、アキじゃないみたいで。
紫陽花に微笑むあの笑顔はどこにいったのだろう。
哀しそうにアキを見つめ、アサヒが小さくかぶりを振った。




