■第35話 100億倍の気持ち
2月14日 バレンタインデー
放課後。 アサヒが部室にやって来ると、そこには既にナツがいた。
大きな紙袋を部室中央の机にドサっと置くと、怠そうに手首を振る。
相当重かったらしい。
『おやおや。それは、もしや~?』
ニヤニヤするアサヒに、睨むように目線を向け
『全部、部長用ですよ!』 と、ナツ。
『ワイロ、ワイロー』 言って、笑いを堪えられずイヒヒ。頬を緩める。
『あー・・・わりぃ。 お前、タイプじゃないんだよな~、ぜんっぜん。』
その会話が聞こえた部長が、ナツにシレっと言う。
ナツが振り返ると、部長は体の前で腕をクロスして×印を作った。
『ぁ、あたしだって。
部長なんかコレっぽっちもタイプじゃないですよっ!!』
ナツが言い返すと、『ハイ、廊下ダッシュ50本~!』 部長が真顔で言った。
部室にいた全員がその会話に笑った。
ナツのまわりには、いつも笑い声が溢れていた。
まずは部長、その次は副部長。そして、先輩マネージャー。
ナツが大きな紙袋を抱えて3年生から順に、それを渡す。
ちょっと照れくさそうに『日頃のご愛顧にカンシャってヤツで。』
モゴモゴ言いながら。
それは、手作りのグラノーラチョコバーだった。
グラノーラやナッツが散りばめられ栄養面も考えられている、それ。
ドライフルーツも入って彩りもキレイで。
ひとつずつセロファンで包まれ、端はねじって止めてある。
シンプルで飾りすぎないそれがナツらしい。
部活終わりの空腹時にもすぐ食べられるサイズと仕様に、さり気ない気遣いが
滲んでいる。
アサヒが嬉しそうに手をひらひら揺らし、催促する。
それをチラっと横目で見ると、涼しい顔をして順番を飛ばし次の先輩へ
行きかけて。
『おいっ!!』 ナツの頭に垂直チョップが飛んできた。
ケラケラ笑い合う。
そして、袋に手を入れそれを掴み、アサヒへまっすぐ差し出した。
少しだけ震えている手に気付かれないか心配で。
笑う顔もぎこちなくなっていないか。
本当は泣きそうな目も。
かすれそうな声も。
その他大勢と同じチョコしか渡せない、自分。
ずっと秘めた気持ちを伝えることも出来ない情けない、自分。
(伝えたって、どうせ。 困らせるだけだ・・・。)
『指導係のアサヒ先輩には、特別に2個あげちゃいますから~!』
その他大勢の2倍の、気持ち。
2倍なんかじゃないのに。
2倍なんかな訳ないのに。
100億倍だって足りない。
だって、あたし・・・ 好きなんだもん。
どうしよう。
アキに、嫌われちゃう・・・
アキを、泣かせちゃう・・・。




