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■第33話 合宿3





散々騒ぎ疲れ、時計の針は深夜1時をまわっていた。

もうお開きにしようと、男女別々の大部屋に移動していた。




ナツの隣には、先輩マネージャーが布団を敷いた。

心地良い疲労感はあったが、なんとなく寝るのは勿体ない気がしてしまう。


布団にうつ伏せになり顔だけナツの方を向く、先輩。

風呂上りのまだ乾ききっていない長い髪の毛を、頭の天辺でお団子に結わいて

いる。

まだ眠くなくて、ふたりで話をしていた。




 『アンタの片割れ、アサヒと付き合ってんの~?』



先輩が、なんの遠慮もなくストレートに訊く。



『・・・じゃないんスか?』 あまりこの話はしたくないのだが、先輩だから

仕方ない。ぼそりとナツは返事をした。




 『片割れ、


  アンタのこと意識して、最近部活にも引っ付いてんじゃないの~?』



ククク。と可笑しそうに目を細める。


そして、




 『アンタは・・・ いいの~?』



それは、あまりにやさしい声色で。

思わず先輩にすべて打ち明けて泣いてしまいそうになる。



ナツが枕に顔をうずめて、小さく返す。 

『・・・いい、って。 なにがスか・・・』




すると、先輩は小さく溜息をついた。




 『ボケっと背中見てるだけじゃ、なんにも見えないよ・・・


  ほんとは、その相手がどんな顔してるのかも。なんにも・・・。』




そう言うと、先輩は仰向けに体をなおし天井をじっと眺めた。

それは何かを思い出しているような、懐かしむような表情だった。






先輩に言われた言葉がグルグルと頭を巡り、眠れなくなったナツ。


寝静まった女子部屋をそっと抜け出し、宿舎の正面玄関を出て入口の段差に

腰掛けぼんやり星空を眺めていた。

秋の星座は、明るい星が少なくなりやや寂しいが、見ごたえのある星雲や

星団が広がっていた。





  (だって・・・ どうしたらいいか、わかんないよ・・・。)




アキのことを考えていた。その時。



『寝れないのー?』 突然、すぐ後ろで声がした。



その声に驚いて、少し飛び上がったナツ。 体を強張らせ、振り返る。

すると、アサヒが笑っている。

ポケットに手を突っ込んで、宿舎のツッカケ履きで。





  (アサヒ先輩・・・。)




『あー・・・ 怖い話きいたから寝れないんだろ?』 

イヒヒ。笑い顔を向ける。


『違うし!』 目をすがめ言い返すと、

『モチヅキに便所ついてってもらってたじゃーん。』とバカにして笑うアサヒ。


『違うってば!!』 グーパンチでボディを狙うナツに、アサヒが腹をかばい

大笑いした。




星が煌めく漆黒の空に、笑い声が吸い込まれてゆく。

こんな時間の、こんな場所で、ふたり。 なんだか不思議な時間だった。


すると、急にアサヒが立ち上がった。

そしてなにも言わずに宿舎に戻って行く。





 (あー・・・ 行っちゃった・・・。)





ナツはその背中を振り返って目で追い、いなくなってしまったのを確認すると

体育座りをして小さくコンパクトに体を縮こめた。


晩秋の深夜は、やはり冷える。

山の奥から吹く風は冷たく怖くて、どことなく身が竦む。

風呂に入ったのは数時間前だが湯冷めするのではないかと、Tシャツにジャージ

ズボン姿でふらっと出てきてしまった事を後悔していた。

  


すると、ツッカケを擦って歩く音が再び聴こえた。


それに振り返ったナツ。

アサヒがジャージの上着を着こんで戻って来た。



『ぁ。自分だけズリィ~!』口を尖らせた瞬間ナツの肩にふわっとぬくもりが。


体育座りをするナツの前に回り込み、『指導係、なめんなよー。』 

言って笑うアサヒの、大きめのジャージの上着に包まれたナツ。


膝を抱えたその小さい体は、アサヒがゆっくりチャックを上げていくとそのまま

膝ごとすっぽりくるまれる。



『ちっせ~。』 ゲラゲラ笑うアサヒ。 

首元までのチャックを上げると、顔まで隠れた。

頭だけひょっこり出ている ”ジャージの上着 ”

アサヒが笑いながらその出ている頭を、大きな手でガシガシと乱暴に撫でた。



アサヒの指先のぬくもりが、心臓にダイレクトに伝わる。





  (やばい・・・ 泣きそう・・・。)




ナツの胸が切なく高鳴り、心臓が激しく波打つ。





  (・・・どうしよう・・・ 泣く・・・。)




思わず首をすくめて更に頭を引っ込め、ジャージに隠れた。

首元からはチョロっと髪の毛が出ているだけの姿に。




 『お前・・・ パイナップルみたいだぞー・・・』




そう言うと、笑いながらダルマのように丸まったジャージの上着を、

指でつついてからかった。





  (・・・あたし、やっぱり・・・ 先輩が、好きだ・・・。)





ナツはすっぽり隠れたジャージの中で、膝に顔をうずめて震えて泣いていた。

口許に手をあて声を殺して、小さく小さく泣いていた。




そんなふたりを、ダイスケが宿舎の窓から見ていた。

その顔は哀しげに歪み、顔を逸らすと静かに部屋に戻って行った。

 

 


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