■第30話 期末試験
ダイスケは、あの時のアキの言葉を思い返していた。
”あじさい寺の、秘密の場所 ”
きっと、それはナツが隠れてひとりで泣く場所のことを指しているのだろうが
本当にダイスケもその場所は知らなかった。
知っていたら、ナツが泣いている時にはすぐにでも飛んで行って、傍にいたい
のは誰でもないダイスケ自身なのだから。
その場所がアキの慌てふためく事情となんの関わりがあるのか、
全く分からない。
ひとつだけ言えることは、アキのことはナツには言わない方がいいと
いう事だけだった。
その後、オノデラ姉妹を見ていても、なにも変わった様子はなかった。
アキはいつも通りやわらかく微笑んでいるし、ナツも変わりなく見えた。
ふたりの間に少しずつ溝が出来ていたことなんか、この時のダイスケには
知る由もなかった。
双葉高校では、期末試験が近付いてきていた。
相変わらず気怠そうに机に突っ伏す休み時間のナツの後頭部に、
ダイスケが声を掛ける。
『ナツー・・・ 歴史のヤマって、今回どこ?』
『ん・・・』 ナツが面倒くさそうに顔を上げ、歴史の教科書を机の
引出しから引っ張り出す。
勉強など全くしていないキレイなままの表紙のそれを開くと、ページの所々に
簡単に赤ペンでしるしが付けてある。それは、どの教科も同じだった。
ナツはノートはとらずに、授業中に教師が強調して説明した部分や、声色、
表情で重要度をはかり全て教科書に赤字でマークしていた。
跳び抜けた洞察力は、ナツに試験のヤマを聞けば8割的中するくらいだった。
『試験に出るトコ分かってんだから、ちょっと勉強すれば
すぐ学年トップなのに・・・ なんでやんないかなぁ・・・。』
ダイスケが聞こえよがしに呟くも、『めんどくっさ。』 と顔を背けるナツ。
理由は分かっていた。
アキだった。
ナツほど要領がよくないアキは、コツコツと日々努力をして机に向かう
タイプで。
アキはその努力家の気質で、常に学年では上位にランクインしていた。
それを、崩したくない。
壊すつもりなんて、ハナからない。
”優等生のアキ ” ”勉強嫌いなナツ ” そのバランスになんの問題もなかった。
アキが笑ってさえいてくれれば、ナツはそれで良かったのだ。
そのアキの笑顔が翳りはじめていた事に、まだ誰も気付いていなかった。




