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■第29話 その場所

 


 

  

夕方。 アキはアサヒと別れると、そのままダイスケの家へ向かった。

 

 

『お邪魔します。』 とリビングに低く声を掛け、2階のダイスケの部屋まで

階段を駆け上がる。

すると、拳でそのドアを乱暴にノックした。

 

 

 

 『どうしたの・・・? アキが来るなんて珍しいじゃん・・・。』

 

 

 

不思議そうなダイスケに、アキが部屋の前で留まり『入ってもいい?』 と

落ち着きなく目線を泳がせる。

 

 

『うん。』 そう返事をして、ドアを開放しアキを室内へ促した。

 

 

アキはソワソワと余裕がない面持ちで、ダイスケがイスを差し出すも

首を横に振り部屋の真ん中で立ち竦んだまま。


ふと、アキの目に机の棚に飾られた写真立てが映る。

幼稚園時代の3人の屈託ない笑顔。 満面の笑みを浮かべる頬はみな、紅色で。

目をすがめてそれから目を逸らすと、アキが思い詰めた感じでダイスケへ

切り出した。

 

 

 

 『ねぇ、ダイちゃん・・・ ナツ、の・・・


  ナツがよく行く、あじさい寺の、なんか・・・


  ・・・秘密の場所、みたいなの。 どこか知ってる・・・?』

 

 

 

緊迫感が滲み出ているアキはダイスケの腕を掴み、揺さぶって詰め寄る。

 

 

『ぇ・・・ 分かんない、けど・・・ どしたの?』 ダイスケが答えるも、

 

 

 

 『ウソ! 隠してないで教えてよ!!


  ダイちゃん、ナツと仲良いじゃない! 知らない事なんかないんでしょ?』

 

 

 

アキの追及は止まらない。 必死の形相で睨み付ける。

その気迫に気圧され、数歩後ずさったダイスケ。

勉強机のイスにお尻がぶつかり、キャスターがカタリ。鳴った。


こんなアキは、長い付き合いだが見たことがなかった。

 

 

アキに掴まれた腕をやさしくほどき、細い肩に手をあてると静かに

ベッドの上に座らせる。

 

 

 

 『どうしたの? アキ・・・。』

 

 

 

覗き込むようにやさしく語り掛けると、アキがぽろぽろと涙の粒を落とした。

首を横に振るばかりで、何があったかは最後まで決して言おうとはしない。


次々と伝ってゆくその雫は、アキのツヤツヤの頬に幾筋もの跡をつけた。

 

 

 

 

 

アキが帰った自室に、ひとり。 ダイスケが佇む。

帰り際にアキが呟いた一言を思い返していた。

 

 

 

 『ナツってさ・・・


  フジエダ先輩のこと、なんとも思ってないよね・・・?』

 

 

 

アキのその声色は、ゾッとするほど冷たかった。

 

 


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