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■第28話 日曜の待合せ



 

 

照れくさそうに軽く手を上げたアサヒの目に、今日もふんわりやわらかい

佇まいのアキが頬を染めて駆け寄った。

 

 

 

待合せの日曜12時。 はじめてアサヒとアキ、ふたりきりで休日に会った。

 

 

デニムシャツの中に、赤青ボーダー柄カットソーを着込みチノパン姿のアサヒ。

普段は学ランか学校ジャージの姿しか見たことがないアキにとって、この私服

姿を見られただけでも充分嬉しい。

 

 

アサヒも、私服のアキに目を細めて微笑んだ。


裾の刺繍が雰囲気ある膝上ふんわりチュニックにカーディガンを羽織り、

スエード調のキャメル色のウエスタンブーツを履いている。

いつも背中に垂れている長い髪の毛は、ルーズな編み込みをくずしアップ

スタイルにしていてサイドに垂れる後れ毛がゆるふわ感を引き立て、

目を見張るほど可愛らしい。


ふたり、照れくさそうに頬を緩めて、日曜の正午の街を歩き出した。

並んで歩くその姿はお似合いで、どこから見ても仲良さそうなカップルに

しか見えない。

 

 

 

この街の代名詞ともなっている大きな公園に向かった。


園内には小さなフードカートが並び、シンプルなホットドッグやサンドイッチ、

ポップコーンやプレッツェルのカラフルな看板が見える。



『あーゆうの買って、ベンチで食べよっか?』 


アサヒが促すと、アキが嬉しそうに頷いた。

アサヒはホットドックとコーラ、アキは悩みに悩んでサンドイッチと

アイスティーを買い大きな木の陰になっている木漏れ日揺れるベンチに、

ふたり腰掛ける。

 

 

日曜の公園は、家族連れやカップルの姿が多い。 

観光客もチラホラ見て取れる。

晴天に恵まれたその日。 芝生にレジャーシートを敷いて寝転がる姿もあった。

 

 

ただ隣にアサヒがいるというだけで、ただサンドイッチを食べるだけのこと

なのに恥ずかしくて普段どおりにノドを通らないアキ。


両手で掴んで口許にあててはいるがじっと俯いたままで、ちっとも減らない

それにアサヒが覗き込んで訊く。

 

 

 

 『腹・・・ 減ってなかった?』

 

 

 

アキは大きく首を横に振ると、肩をすくめて小さく言う。

 

 

 

 『なんか・・・ キンチョーしちゃって・・・。』

 

 

 

その一言に、アサヒも俯いた。

急激に顔が、耳が、熱い。

 

 

『なんだそれ・・・ オーゲサー・・・。』 

その声も少し緊張して震えて響いた。

 

 

 

すると、


『きゃっ!!!』 アキが急に大きく体を反らせて、アサヒに寄り掛かった。

 

 

突然の大接近に目を見張るアサヒ。

アサヒの胸に、アキが手を添え顔を寄せている。


するとアキは『虫・・・。』 と、泣きそうな顔でアキのサンドイッチに寄って

飛んできた虫から逃げようとしている。

 

 

ほぼ胸に抱き付く寸前のアキの華奢な背中を、

アサヒは『ダイジョーブ、ダイジョーブ』 とぎこちなくトントンと

日焼けした手で叩いて笑う。


不快感を与えないか不安な反面、もっと触れたいという気持ちとせめぎ合う。

軽く虫を払ってあげると、アキはまだキョロキョロ見回して警戒しながら、

体を強張らせていた。

 

 

いまだ不安気にしかめっ面をしているアキに、アサヒが笑って言う。

  

 

 

 『カタツムリはダイジョーブなのにな?』

 

 

 

『え?』 言われている意味が分からず、アキが小首を傾いだ。

 

 

 

 『俺、実は・・・ 去年の夏のはじめに、オノデラさん見掛けてんだー。』

 

 

 

アサヒが眩しそうに目を細めて話し出した。

あの雨の日の、胸の高まりは忘れはしない。

 

 

 

 『ほら、あの。 あじさい寺の、裏の小径・・・


  雨の日に、あそこ行ったら。


  オノデラさんが、傘さして、しゃがみ込んで紫陽花みてた・・・』

 

 

 

アキが、まっすぐアサヒを見つめる。

 

 

 

 『あの場所、俺以外に知ってる人いると思わなかったからさー・・・


  それだけでも、かなりビビったんだよねー・・・』

 

 

 

 

  ( ”あの場所 ”・・・?)

 

 

 

 

 『あの時って、ナンかあったの・・・? 泣いてただろ・・・。』

 

 

 

無言で見つめるアキへ、アサヒが続ける。

 

 

 

 『虫苦手って割りには、あの時・・・


  カタツムリつついて、笑ってたじゃん?

 

 

  俺・・・ あれ見てから、ずっと・・・


  あん時のオノデラさんのこと。 


  ほんとずっと、頭から、離れなくて・・・。』

 

 

 

そう言うと、アサヒは赤い顔をして照れくさそうに頬を緩めた。

生まれてはじめてのひとめ惚れ。 再びあの日のように胸は熱く高鳴る。

 

 

アキが俯いた。

膝の上に置いた手は、握り拳をつくって。

落とした目線は、ウエスタンブーツの爪先に注がれた。

 

 

そして、震える声でか細く返した。

 

 

 

 『・・・そうなんです・・・ カタツムリだけ。平気、なんです・・・。』

 

 

 

 

 

石畳の小径を横切り、大振りの葉を広げるムクロジの木々をくぐり抜け

初夏には紫陽花が満開になる、秘密の場所へ向かう足取りはトボトボと重い。


もう紫陽花の花は終わってしまったけれど、葉が微かに赤銅色に色褪せ紅葉し

風情がある。

しゃがみ込んで小さく膝を抱えると、元々小さな体が更に小さくコンパクトに

まとまった。

 

 

大きな瞳に、大粒の涙。

 

 

いつも泣きたくなった時は、ひとり。ここに来て泣いていた。

誰も知らない秘密の場所。

ここでだけは好きなだけ泣いていいと決めた、この場所。

 

 

 

 

 『デート・・・してるんだ、今頃・・・。』

 

 

ひとり小さく呟いて、ナツが大粒の涙をぽろぽろ零した。

 

 


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