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■第27話 アキの顔

 


 

 

ちゃんと喜ぶ表情が作れているかどうか、不安だった。

 

 

重苦しい胸の痞えを抱えたままダイスケの家を後にし、自宅に戻ったナツ。

小さく一呼吸してふたり部屋のドアの沓摺りに立つと、アキがすごい勢いで

抱き付くように駆け寄ってナツの手を掴み、真っ赤な頬で目を潤ませている。

 

 

 

 

  (お土産のことかな・・・。)

 

 

 

 

精一杯笑顔を作った。

目は合わせられない。 

声色だけなんとか明るく、からかう感じのそれを誇張する。

 

 

 

 『な~に個別でもらってたのぉ~? 京都土産~?』

 

 

 

ナツはそう言うと、そっと目を逸らし自分の机の上にカバンを置いて

目を落とした。

カバンの上に置いた手は、きまり悪く指先の爪を無意味にはじく。

 

 

すると、

 

 

 『ぁ、うん・・・ お土産も、もらったんだけどね・・・。』

 

 

 

アキが興奮冷めやらぬ感じで、二の句を継いだ。

胸の前で両手の平を合わせ、その目はキラキラと輝いて。

 

 

 

 『日曜にね、ふたりで出掛けることになったのっ!!』

 

 

 

”ふたりで出掛ける ”という予想だにしていなかったその言葉に、

立ち竦むナツ。

瞬きという動作を忘れてしまったかのように、目は見開く。

カバンに落とす目線が、じわじわ霞み滲んでゆく。

ノドが痞えるような息苦しさに襲われ、声が出ない。

頭がぼうっとして、なんて言っていいのかさえ分からない。


本来なら一緒に喜んで、はしゃいで、浮かれて、当日の服はどうするとか、

髪型はどうするとか普通なら、普通の姉妹ならして当たり前のことを、

上手にしなければならないのに。

 

 

なんとか一言、ノドの奥から小さく絞り出した。

 

 

 

 『それって、デートじゃん・・・ よかったね・・・。』

 

 

 

 

 苦しい


 苦しい


 苦しい・・・

 

 

 全然よくない


 よくなんかない・・・

 

  

 だって、


 だって、あたし。

 

 

 

  ・・・アサヒ先輩のこと。 好きだ・・・

 

 

 

 

 『ぁ。 ダイスケんちに忘れモンした・・・。』

 

 

アキに顔を見られないよう目線をはずして、慌てて部屋を飛び出した。


足がもつれて階段を駆け下りるそれは覚束ない。

みるみるうちに視野は滲んで揺らいでゆく。

 

 

 

 

  (泣きたくない・・・ 泣きたくない・・・。)

 

 

 

 

このままダイスケのところに行ったら、ダイスケの前で泣いてしまうかも

しれない。


きっとダイスケは、本気で怒って心配して、そして誰よりやさしく厳しく

包み込む。

ダイスケの顔が浮かんで消えた。

 

 

 

 

  (ダイスケに甘えたくない・・・。)

 

 

 

 

ナツは暗い住宅街を学校ジャージのまま、闇雲に走った。


猛ダッシュに肺が爆発しそうに苦しいけれど、決して足を止めはしなかった。

秋の少し冷たい夜風が容赦なく顔をすぎてゆく。

その風は、目尻から溢れる雫をそっと流し連れ去った。

 

 

『苦しいよぉ・・・。』 ナツの震える声が、夜のとばりに包まれ消えた。

 

 


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