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■第25話 ダイスケの部屋で



 

 

ナツとダイスケ、ふたり歩く帰り道。

 

 

ダイスケの後ろを数歩遅れて歩くナツ。

足元に目を落とし、なにも喋らない。

アスファルトに踵を擦って進む足取りは、まるで足首に足枷でもはめられて

いるかのように重く鈍い。


ダイスケはチラっと後ろを見つつ、なにも言わずその距離を保ったまま歩いた。

いつもの帰り道のはずが、やけに今日は家までの道のりが遠く長く感じるのは

気のせいだろうか。

 

 

すると。 ナツが、そっと手を伸ばしてダイスケのジャージの背中を掴んだ。

その掴んだ小さな手が小刻みに震えているのがダイスケの背中へ微かに伝わる。

 

 

ナツは泣きそうなのを必死に堪えている。

 

 

最初、力強く肩甲骨あたりのジャージを掴んだその手は、次第に弱々しく

力が抜けギリギリ辛うじて指が引っ掛かっているだけのようにズリズリと

下がって腰で止まった。


ダイスケは物心ついてから、ナツの泣き顔は見たことがなかった。

ナツは決して人前で泣かなかった。

 

 

だから、今も。

泣きそうな顔は見られたくないはずだった。

 

 

ダイスケは決して振り返らない。

その代り、右手をそっと後ろへ伸ばし、ジャージを掴んでいない方の

ナツの手を握る。


ナツがうな垂れて立ち止まった。

なにも、言わない。


ダイスケが握ったもう一方のナツの小さな手は哀しいほどに冷たくて、

ダイスケの手の平の熱では温めることなど出来ないと言われているような

気分になる。


それでも、ぎゅっと握り締めた。

 

 

 

 『ウチ、寄ってけば・・・?』

 

 

 

そっと声を掛ける。 このままでは、アキの顔を見られないだろう。 

『ん・・・。』 やっと聞こえたナツの声は、足元に小さく落ちてくぐもった。

 

 

 

 

 

ダイスケの部屋。 なにも喋らないふたり。

部屋の壁掛け時計の秒針だけが、静まり返った部屋に小さな音を落としている。


勉強机のキャスター付きのイスに、ナツが猫背気味に浅く座る。

いまだ俯いたままのその横顔は、ショートカットのサラサラの毛先が前に流れて

潤んでいるであろう目元をそっと隠す。

 

 

なにも言わず、ダイスケがナツの横に立った。

イスのキャスターを90°回転させ向き合うと、ナツの両肩に手を置く。


そして、そっとナツの頬に両手をあてた。


哀しげなその頬の温度は、ダイスケの手の平のそれよりじんわり高い。

上半身を少し屈めると、背の高いダイスケの目線がナツのそれに合った。

 

 

じっと、見つめる。

目を逸らさず、じっと。

 

 

雫がこぼれてしまいそうで、しかしギリギリのところで堪えるナツの目は、

まっすぐダイスケを見ていた。

 

 

すると、ダイスケがナツの頬を親指と人差し指で軽くつまんで引っ張った。

ナツの顔がつぶれたカエルのように歪み、口の端が伸びる。

 

 

 

 『僕だと、なんにも感じないでしょ・・・?』

 

 

 

小さく呟く。

 

 

 

 『フジエダ先輩のときは、ナツ、首まで真っ赤になってた・・・。』

 

 

 

ダイスケが泣き出しそうに哀しい顔を向けた。

 

 

 

 『どうして・・・ アキに全部、譲っちゃうの・・・?』

 

 

 

顔を歪め、目を逸らして声を絞り出す。

 

 

 

 『ナツのそんな哀しそうなの・・・ 僕、見たくないよ・・・。』

 

 

 

力が抜けたダイスケの手が、ナツの頬から離れストンと落ち、

そのまま華奢な肩の上に着地する。 

手を広げ、その小さい肩を揺さぶるダイスケ。 

俯いて、苦しそうにぎゅっと目をつぶり、かぶりを振る。

 

 

 

 

 『ナツの、ほんとの意味での親友は・・・


        ・・・アキなんかじゃない・・・ 僕だ・・・。』

 

 


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