■第24話 アサヒが帰った日
その日、慌てて走って部活に顔を出すと、そこにはアサヒがあの陽だまりの
ような顔で笑っていた。
朝から内心ソワソワと落ち着かなかったナツ。
傍目にそれを悟られないよう隠すのに躍起になって、まだ部活前だというのに
もう既に疲れてクタクタだったのだが。
『あ! 帰って来たー!!』
子供のように顔を綻ばせ、ナツが嬉しそうに笑う。
疲れなど吹っ飛んだのは、紛れもなく ”陽だまり ”を見られたからで。
色とりどりのスーパーボールが跳ね踊るように、嬉しくて堪らないその心は
高鳴る。
『ちゃんとやってたのかー?』 アサヒがナツを覗き込む。
途端に恥ずかしくなって、俯き、少し口ごもる。
『・・・いっつも、ちゃんとやってるし。』
『はあ~?』 アサヒに突っ込まれ、互い、顔を見合わせて笑った。
部室の机の上に、アサヒが大きな紙袋を乗せた。
空港のセキュリティチェックを受けた証のシールがベタベタ張られたその紙袋。
それを一気にひっくり返した。
すると机上には、京都ご当地Collon、ハイチュー、キットカット、
プリッツ、ベビースターが大量に紙袋から現れた。
『めっちゃ、かさ張ったー・・・。』
そこそこ人数が多い陸上部用のお土産は、多種多様な京都限定ご当地
お菓子だった。
箱を開けて個包装のそれを机の上に広げるアサヒ。
ナツも手伝って、箱の開け口のつまみをミシン目にそってペリペリと切り離す。
すると、アサヒはナツへ言った。
『みんな来る前に、1個ずつ全種類持ってけ。』
その顔はニヤっと笑いながら。
さすがに全員が全種類1つずつ貰えるほどの数は無かったのだ。
ナツが嬉しそうに頷いて、ジャージのポケットぱんぱんにそれを詰め込んだ。
その日のナツは、特に張り切って走っていた。
目の前にはアサヒの背中がある。 5日ぶりのアサヒの背中。
たった5日が、まるで数か月のようにも感じていた。
アサヒの背中に続いて走ることの喜びに、まるで羽根が生えたように
足は軽かった。
すっかり陽が暮れて、グラウンド脇の常夜灯に灯りがともる。
もう石灰の白線も見えにくい時刻。
部員全員もう帰り支度をはじめていた時のこと。
アキがグラウンドの入口隅にポツンと立っているのが見えた。
今日は一緒に帰る日ではなかったはずだが、待っていてくれた事が嬉しくて
ナツがその姿に駆け寄ろうとしたその瞬間、アサヒがナツを追い抜いてアキの
元へ駆け寄った。
その手には、包みを持って。
可愛らしい袋を、アサヒがアキに渡している。
アキが嬉しそうに肩をすくめ微笑む。
声は聴こえない。
まるで白黒無声映画のように。
でもそれは、どう見てもほんのり色付いていて。
アキの頬が赤く染まっていて。
渡すアサヒのそれまでも、照れくさそうに赤く・・・
そんなふたりを、ナツはただ黙って遠く見ていた。
ナツのジャージのポケットに詰まった、その他大勢用のお土産だけ擦れ合って
哀しげな音を立てた。




