■第23話 不在の間
『アレ。どーしたの? 随分がんばっちゃって~・・・』
先輩マネージャーが、ダイスケに『アレ』 と、アゴで指すのはナツだった。
目を落としていた書類のバインダーを一旦胸に抱き、可笑しそうに眺めている。
真剣な眼差しで走り込む姿。
アゴを少し引き視線を固定して、腕をしっかり振り懸命に走る。
2年生部員は修学旅行に行っていて不在で、3年生と1年生のみの陸上部は
いつもよりグラウンドは空いていて、走りやすい反面どこか物寂しかった。
『指導係がいなくても、ヤレば出来んじゃんね~?』
頬をゆるめ、まるで幼子を見る母親のようにやさしく呟く先輩マネージャーに
ダイスケが小さくポツリ言う。
『いないからこそ、じゃないんですかね・・・。』
先輩に言われるまでもなく、いち早くそんなナツに気付いていたのは誰でもない
ダイスケ自身だった。
言葉では言い表せないモヤモヤした灰色の得体の知れないものが胸中を渦巻く。
”応援”するのが得意と言ったあの宣言は何処にいったのだろうと内心失笑した。
アサヒがいない間、ナツは一番に部活に顔を出し、諸々の準備をし
マネージャーの仕事も手伝った。
そして、懸命に走り、部活終わりは後片付けも率先して申し出ていつもの
アサヒの様に一番最後まで残っていた。
部活終わり、部室に来るよう部長に呼ばれたナツ。
少し身を固くして、その日一日の自分の振る舞いを思い起こす。
真面目に走ったし、マネージャーの仕事も手伝ったし、部長に口答えも
していない。
『・・・今日は怒られることは、してない、気が・・・。』
部長の前に直立姿勢で立ち、モゴモゴ俯いて言うナツ。
まっすぐピンと伸ばし下ろした手の指先が、ジャージのズボンのサイドラインに
ぴったり沿っている。
そんなナツに、部長が笑う。
『なんだよー、たまには褒めてやろーと思ったのにー・・・』
パコリと頭をはたかれた。
結局叱られても褒められても、はたかれるのは変わらない。
隣に立つ先輩マネージャーも、ケラケラ笑っている。
『なんだー・・・ まーた、怒られんのかと思った・・・。』
照れくさそうに笑い途端にだらしなく姿勢を崩したナツに、部長は言った。
『お前さー・・・ 素質あるんだから。 ちゃんとこの調子で頑張れよー
指導係にイチイチ左右されてないで・・・。』
また出てきた ”指導係 ”というワード。
『そんなんじゃないっス!!』 赤くなって眉間にシワを寄せ口を尖らすナツ。
部長とマネージャーが顔を見合わせて、ケラケラと可笑しそうにいつまでも
笑っていた。




