■第21話 金平糖の約束
アサヒとアキ、ふたり並んで歩く帰り道。
夕陽翳る道には、ふたりの長い影がしっとり落ちる。
生ぬるい風に乗って夕げのにおいが流れ漂うと、アサヒの腹の虫がまた鳴った。
頬をゆるめ白い歯を覗かせるアサヒを、アキが肩をすくめてクスクス笑う。
グラウンドを抜け通学路を通り過ぎたあたりの住宅街に差し掛かると、
終わりかけの少ししおれた紫陽花が目に入った。
コバルトブルーの花びらの先が、過ぎゆく季節に少し茶色くくすんでいる。
『もう紫陽花も終わりの季節だな・・・。』
ポツリ言ったアサヒが『紫陽花・・・好き?』 と、アキをどこか試すように
問い掛けた。
チラリ目線を向け、アキの表情を盗み見るように。
『好きですよ・・・ お花全般、大好きです!』
アキが目を細めて微笑む。
間違いではないと納得するかのように、その横顔をアサヒは嬉しそうに
見つめていた。
すると、どこからかピアノの音が流れ聞こえた。
子供が練習しているのか、少したどたどしくそれは響く。
アキが嬉しそうに耳を傾け、自然に指先が動く。
『ト長調のメヌエットだ・・・』
『ピアノ・・・ 詳しいの?』
アサヒが訊くと、アキは『習ってるので。』 と、言って笑った。
『ナツも一緒に習ってたんですけど・・・
つまんないって言って、途中で辞めちゃって。』
アキの話に、『らしいな~』 アサヒが笑う。
『一緒に習ってたことは全部辞めちゃったんです、ナツ・・・。』
どこか寂しそうに呟く顔に、
『別にいいんじゃない? 元は別なんだし。』
アサヒのその一言にアキが目を伏せた。
『もう少しで修学旅行ですよね?』
2年生は秋の修学旅行が近付いてきていた。
『どこに行くんですか?』 アサヒに目を向ける。
『京都じゃなかったかな~ ・・・確か。』
それは、まるで他人事のような口調。
高校生にとってのビッグイベントな気もするが、アサヒにとっては然程重要度は
高くないらしい。
『今、すっごい可愛い、カラフルな・・・
なんか、ビーズみたいな金平糖が人気あるんですよー!』
思い出して目を細めて微笑む、アキ。
女性に人気の京都土産ランキングで上位に入っていたそれ。
ネットで話題になっているのを見掛けて以来、気になっていたのだった。
アサヒがその横顔をチラリ見て、笑う。
『えー。 お土産、催促されたー・・・』
『違います!違います!!』 慌ててアキが首を横に振る。
本当にそんなつもりで言った訳ではなかった。
図々しいタイプだと思われたくなくて、必死に身振り手振りをまじえ弁明する。
困った顔を向けて『ほんとに違いますから。』 と、まだ繰り返すアキに
ククク。と笑って俯いたアサヒ。
『いいよ。 ・・・買ってくるよ。』
その一言に、アキが一瞬固まり目を見張った。
そして次の瞬間、パッと表情が明るくなったアキ。
口許に指先をあて、パチパチとせわしなく瞬きをする。
『ほんとですか・・・?』 面白いように、くるくる表情は変化してゆく。
『ん。 いいよ。』
確かに聴こえたアサヒの言葉に、頬を染めて少し目を潤ませアキが喜ぶ。
たかが金平糖でそこまで喜ぶアキを、アサヒは照れくさそうにそっと見つめて
背中を丸め笑った。
なんだか、アキの赤い頬の熱が夕風に乗って伝染したのではないかと思うほど
熱いアサヒのそれ。 夕光が頬をかすめ照らしているだけではなさそうで。
アサヒの胸が、ほのかに熱を憶え歯がゆく高鳴った。




