■第20話 ふたりの姿
アサヒが先輩マネージャーに言う。
『もう、あんま時間ないんで。 今日は俺、帰ります。』
思いのほか、時間がかかった図書委員会。
今からジャージに着替えて準備運動をしていたら、もう部活終了の時間に
なりそうだったのだ。
ふと目を向けると、グラウンド入口にはアキがポツンと所在無げに立っている。
『ぁ。オノデラの片割れ・・・
待つの? あの子、もうちょっと掛かるよ、時間。』
先輩マネージャーが、部長と走るナツをアゴで指して笑って言う。
たまに後頭部をはたかれながら、ナツが窮屈そうに走る姿が目に入った。
そんなナツに再度目をやり、アサヒの背中にも小さく目線を向け、アキは微かに
頬を染めて面映そうにポツリ言った。
『・・・時間かかるなら、帰ります・・・。』
そして、もう一度。 小さく目線をアサヒの背中に向けた。
アサヒとアキがふたり並んで、通学路へ向けグラウンドを出て行く。
学ランのアサヒと、ワンピース制服のアキの背中。
走っている途中のナツがさすがにバテ始め、顔を歪めて天を仰いだその時
そのふたりの後ろ姿が目に入った。
思わず立ち止まって、グラウンド出入口を遠く見つめる。
グラウンドのフェンス向こう、夕陽に染められたふたりが歩いてゆく。
遠く稜線から覗く橙色のそれはやわらかく夕空を包み込むように照らしている。
隣で走っていたはずのナツが足を止めた事に気付き、振り返った部長が
声をあげる。
『オーノーデーラーーー!』
呼んでも反応がないナツに、部長が首を傾げ小走りで駆け寄った。
そして、ナツが凝望するその目線の先を追い、俯いてククク。笑う。
すると、ナツが急に猛ダッシュをかけて走り出した。
腕を思い切り振り、脚を高く上げて。風を切るように、全力で走る。
唇を噛み締めて、目をすがめて、眉根をひそめて。
アサヒとアキ、ふたりの後ろ姿が頭から離れなかった。
心拍数が上がってゆく。
心臓が痛い。
呼吸が苦しい。
(ふたりで、なに話してるんだろ・・・
どんな話して、笑ってるんだろ・・・)
アキが嬉しそうに微笑む顔が、目に浮かぶ。
(やめなきゃ・・・ こんなの、やめなきゃ。
ただの、部活の先輩。ただの先輩。ただの、ただの・・・)
胸の痛みに顔を歪め、ナツが走る足を止め、その場に立ち竦んだ。
夏の終わりの向日葵みたいに首をもたげ、両の手の握りしめた拳は
小刻みに震える。
夕陽に照れされグラウンドに落ちた影は迷子のように心細げに薄く延びていた。




