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■第13話 南棟で


 

 

その日は、朝から雨が降った。

 

 

 

体育館は球技系の部活が使っている為、陸上部がそこで使えるスペースなどなく

部長の一声で、今日は自由活動になった。

筋トレやストレッチをする面々。

いっそのこと潔く諦めて帰宅して休養するのも有りだった。

 

 

アサヒが退屈そうに体育館入口横の狭いスペースでストレッチしている。


体育館を当たり前に占領し駆け回るバスケ部の生き生きした顔が、

室内では行き場のない陸上部には羨ましく、ほんの少し妬ましい。

 

 

同じようにつまらなそうな顔で床に開脚し、背中を丸めて気怠げにストレッチ

するナツを見付けたアサヒ。

こっそりナツの後ろに立ち、肩に手を置くと思いっきり背中を押す。


『あだだだだだだだだだ!!!』 突然胸が床につきそうなくらい背中を押され

痛みに悶え声をあげるナツ。

涙目になって眉間にシワを寄せ振り返ると、

 

 

 

 『階段ダッシュでもすっか?』

 

 

アサヒが、悪戯にニヤっと笑いかけた。

痛む内腿をさすり呆れて笑いながら『いっスねー!』 ナツもその案に乗った。

 

 

 

 

なるべく人が少ないような、ダッシュしても邪魔にならない階段を探す。

調理実習室がある南棟は生徒も少ないはずと目星を付け、アサヒとナツ、

ジャージ姿のふたりは廊下を進んだ。


数年前に増築され比較的新しい南棟の廊下は、磨き上げられどこかひんやりと

感じる。

体育館からも離れているため、運動系部活の声も届かない。


ふたりの内履きの靴底ゴムが床にキュっと擦れる音だけ小さく響いていた。

 

 

 

 『双子って言われないと、なんか・・・ なんとなく気付かないよな?』

 

 

 

先日の、アキとのことを思い返し、アサヒが口を開いた。

『双子ってなんでもお揃いにすんのかと思ってたー。』 と、笑う。

 

 

 

 『子供の頃はなんでもお揃いでしたよ。


  でも、まぁ・・・ 基本、あたし達ぜんぜん違うし。・・・中身的に。』

 

 

 

『まぁ、そうだな。』 

そう言って可笑しそうに笑っているアサヒを横目で見つめた。


あの日、ふたりでなにを話して、どんなことで笑い合ったのか、考えただけで

ナツの胸にまたあの痛みが甦った。

 

 

 

 

 

南棟はやはりひと気はなく階段をダッシュで上がっても問題はなさそうだった。

1階から3階まで全力ダッシュするというだけのルール。

 

 

 

 『用意・・・ スタート!』

 

 

 

階段前に並んだふたりが少し上半身を前屈みにし、合図と同時に階段を

駆け上がる。

ふたり分の靴底ゴムが擦れる音が、不規則に階段踊り場の高い天井に、壁に、

反響する。


長身でストロークが長いアサヒは2段とばしで軽快に駆け上がり、ナツは必死に

踏ん張りそれを追い掛けた。

しかし、脚力の差は歴然で。どんどんつけられていくその差に、ナツはだんだん

笑いが込み上げ、次第に笑い声が漏れ、3階にゴールする時にはケラケラ笑い

ながら駆け上がっていた。

 

 

それにつられて、先にゴールしたアサヒも階段上で笑う。

 

 

 

 『真面目にやれー!』

 

 

 

そう言って、遅れてやっとゴールしたナツの頭に垂直チョップをお見舞いした。


全然痛くはないアサヒのやさしいチョップ。

日焼けして引き締まった大きなアサヒの手。

微かにナツの頭に、その手のぬくもりが伝わる。

 

 

頭は打たれても痛くなかった。

頭は全く痛くなかったけれど、胸は激しく打たれて息苦しささえ憶える。

 

 

 

 

  (どうしよう・・・ ダメだ。やめなきゃ・・・ やめなきゃ・・・。)

 

 

 

 

すると、少し開いている窓から湿った雨の音が小さく聴こえた。


廊下に並ぶ雨の窓へ目を向けるアサヒ。

吸い寄せられるように窓の前に立ち、遠く眺めている。

 

 

そこには、弱い雨の中、通学路を自宅に向け帰ってゆく傘の群れ。

まるでなにか探すかのように、アサヒがそれをじっと見つめていた。

 

 


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