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■第12話 窓から見えたふたり


 

 

トボトボと足取り重く家路へ向かっていたナツ。


少し猫背気味に踵を引き摺って歩き、無意識のうちに溜息が落ちる。

アスファルトに伸びる影まで、うな垂れて寂しげに映った。

 

 

すると、後方から名前を呼ばれその声に振り向く。

そこにはダイスケが立っていた。

学ランでカバンを片手に持つその姿。学校帰りに寄り道でもしたのだろうか。

 

 

『なんだ・・・ ダイスケか・・・。』 

軽く舌打ちしてすぐさま前に向き直る、ナツ。


『なんだ、とは なんだ。』 ダイスケがナツの横に並んで歩きはじめた。

 

 

 

暫し無言でふたり、並んで歩いていると、

『あ。』 ナツが急に声を上げ、立ち止まった。


『ん??』 ダイスケがその声に目線を向け、振り返ると、

 

 

 

 『今、帰っちゃマズいんだった・・・。』

 

 

 

その意味不明なナツの言葉に、ダイスケが首を傾げる。


『このまま。アンタんち、いくわ。』 ぼそり呟いたナツに、『あぁ。』 と

良く分からないけれど一言返した。

 

 

 

 

ナツの自宅の3軒先にあるダイスケの家。


『おばちゃん、オジャマー!』 玄関先で叫び、乱雑にローファーを脱ぐとそれを

揃えもせずに、そのまま勝手に2階のダイスケの部屋に向かった。

 

 

入り慣れたダイスケの、その部屋。


物が少なくてシンプル・・・というよりは、簡素。というかむしろ質素。

ベッドと勉強机と本棚しかない。

洋服はベッド下のチェストに詰まっているらしい。


そんな面白味もない部屋の机の棚に、写真立てがひとつ立て掛けられている

のが目に入った。

 

 

 

 『・・・乙女か!』

 

 

 

ナツがその写真立てを掴み、目を細めて可笑しそうにケラケラ笑う。

いつ見ても笑える、ダイスケが大切に飾るその写真。

 

 

そこには、幼稚園児3人の姿。


3人とも同じ幼稚園スモックに身を包み、黄色いつば付き帽子をかぶっている。

左側がアキ、真ん中にダイスケ、右がナツ。

ぷくぷくの赤い頬で楽しそうに笑うその顔。


ちょっと照れくさそうに無言で写真立てをナツの手から奪うと、ダイスケは元の

棚の上にそれを戻した。

そして、机の上にカバンを置きその中から教科書を取り出しながらナツに訊く。

 

 

 

 『・・・なんで自分んちに帰んないの?』

 

 

 

すると、咄嗟にバツが悪そうに目を逸らしたナツ。

その表情に、『アキ、か・・・。』 ダイスケはわざと大きく溜息を付いた。


ナツが、オタオタと分かり易く慌てて弁解しはじめた。

不必要に両の指先を絡めたり、ほどいたり、爪をはじいたり落ち着かない。

 

 

 

 『別に、アキがどうこうじゃないんだってば・・・


  ただ、アキが、今、好きな先輩と一緒だから邪魔しないように・・・。』

 

 

 『・・・なんでそれが、ナツが隠れることになんの?』

 

 

 

口をつぐむナツ。

気まずそうに目線は中空を彷徨う。

 

 

 

 『いや、あの・・・


  最初は3人でいたんだけど、急用って言って、あたし。 


  抜けたからさ・・・。』

 

 

 『ふぅ~ん・・・。』

 

 

 

ナツはこのままダイスケとこの話をしていたら、身包み剥がされそうな気がして

慌ててダイスケの視線からはずれて窓の前に立ち、窓を開けて外を遠く眺めた。


ゆっくり訪れる春の夕闇が、街を静かに包み込んでゆく。

宵のうちに吹く夕風は窓辺に佇むナツのやわらかい前髪を撫でて過ぎた。

 

 

すると、丁度ナツの自宅手前あたりにふたりの姿が目に入った。


アサヒとアキが歩いている。

遠目にだって、アキが嬉しそうに照れくさそうに微笑んでいるのは分かる。

肩から前に垂れたふんわり長い髪を、そっと人差し指で背中に戻す。

 

 

アサヒより数歩後ろを歩いて。

カバンの持ち手を、体の前で両手でつかんで。

小首を傾げて微笑む様は、やわらかく眩い。


アサヒはたまに、少し振り返ってアキになにか話し掛けているようだ。

 

 

 

そのふたりを遠く見ていたら、なんだか、胸の奥の奥がぎゅっと握り潰される

ように痛くなった。


こんな痛み、今まで感じたことがない。

この痛みの種類を、ナツは知らない。

出来ることなら、知りたくない。

 

 

窓の外を見たままなにも喋らなくなったナツを不思議に思い、ダイスケが

その隣に立ってナツの目線を辿る。

 

 

そして、ナツにそっと目を戻した。

 

 

 

 『ナツ・・・。』

 

 

 

ダイスケの声に、慌ててナツは明るい笑顔を作った。

しかし、即座に目を落とし、その笑顔は見る見る寂しげに沈んでゆく。

 

 

『どーしようもないバカだ。』 

ダイスケがまっすぐアサヒを見つめて、呟いた。

 

 


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