本当の気持ち
太一said
ザァーッと静かに障子を開ける音がから聞こえてきた
今僕のいる寝室の向こう側の部屋に誰かが入って来たようだ
「利家様?」
部屋に入って来たのは
この時代に来て数少ない気を許せるようになった人物であり
僕の現在の妻でもある「まつ」のようだ
僕は無意識に口元を緩め
「信長様はもう帰ったよ」
そう言うとまつは「失礼します」と言って
僕のいる寝室の障子を開けた
目の前のまつの頭からは湯気が上がっており
肌も紅潮している
「ずいぶんと長かったね」
おそらくでしかないけど部屋を出て行ってから2時間は立っている
この時代にはまだお風呂。正確には浴槽が無かったため
湯浴み。つまりは桶にお湯を入れ
それを浴び、手ぬぐいで体を拭くというのが一般的
個人差はあるものの女性でも1時間もすれば一通りの作業が終了するはず
現にこの時代に来てからのまつは1時間ほどで戻ってきて来ていたので
何の考えもなしに出た純粋な疑問だった
「……」
ただそんな疑問だったがゆえに
まつの沈黙は変な空気を生み太一の頭を混乱させた
なんだろうこの感じ
まつは何かを言いたいそうな顔しているというのが一番正しいのかなと思う
「いや、別にいいよ。僕はそこまでまつを縛るつもりは無いし」
僕は言いにくい事なら言わなくてもいいという結論をだし
できるだけ優しい口調を意識してそう言ってあげた
だがまつは何か腑に落ちない様で目をキョロキョロしている
僕は「ふーっ」と鼻で息を吐き
そんなまつを尻目に腰をあげ、布団を敷きはじめた
そんな僕を見て
「あ!利家様。私にお任せください」
そういったまつは僕の傍に駆け寄り布団をひったくろうとして手を伸ばしてきた
「「あっ」」
手を伸ばしてきたまつの手と僕の布団をつかんでいた手が当たり僕達は声をあげた。
僕はそのまま布団を掴んで立ち尽くした
まつはというと半歩下がり僕の手と当たった右手を胸の前で左手で包むようにして握った
僕は何だかおかしくて声をあげて笑った
そしてそんな僕を見てまつも口元緩め「クスクス」と笑った
そしてまつは
「布団を貸してください」
と、そのままの笑顔で手を差し出してきた
そんなまつに僕は布団を差し出した
そして1分かからずに寝る準備は出来た
僕はというとそのうちに寝巻に着替えておき
しき終わった布団に入ろうと掛布団を掴んだ
そんな時まつが声をあげた
「利家様」
僕は何事かと思い「うん?」とまつの顔を見た
そして僕は今見ているまつの表情に疑問を覚えた
そのまつの顔にはなんだか覚悟を決めた様な感じを感じ取ったからだ
そして僕が何かアクションを起こす前に
「布団の上に座っていただけませんか」
と言われたので
特に異論もなかったので布団の上に正座をした
そんな僕をみてすでに布団の上で正座をしていたまつが僕の目を見つめてきた
そしてまた先ほどの無言の空気になる
どうしようか
僕から声をかけるべきなのか
と思い悩んでいると
「利家様…一つ質問したいことが…ある…のですが」
そう切り出された
そして切り出された言葉の語尾はどんどん小さくなっていっており
最後の方は本当に聞き取った言葉が正しいのか自信が無かった位だ
ただ質問という所は聞き取れたので僕は返答をした
「あぁ。言ってみるがいい」
そう言うとまつは口をまごまごし始めた
そんなに言いにくい事なのか
僕は少し身構える事にした
そしてそんな僕の目の前でまつは意をけしたのか
息を吐き僕を見据え口を開いた
「あの…利家様は昔の利家様とは違うのですか?」
僕は「へ?」と間抜けな声を出しそうになるのをなんとか抑えた
だが、隠しているつもりだがおそらく僕の顔は酷く動揺をしているんだろうな
僕は何とか返答をしようと努力するが最善の返答がどれなのか選べない
僕が思い悩んでいると
「私聞いてしまったんです」
まつが口を開いた
「さきほどの事です。急いで身支度を整え湯浴み場へと向かった私は着物の帯を忘れてしまい一度部屋に戻らせていただきました」
「も、もちろん聞き耳を立てていたわけでは無くすぐに準備をし出て行こうと思ったのですが」
まつも言いにくいのか言葉を選びながら慎重に喋っているよに見える
ただもう聞かれたという事は間違いないようだ
どうする事が正解なのか
僕は考ながらもまつの言葉に耳を傾けていた
どうやら聞かれていたのは
「僕らは殺しなんて無い世界からきたんだ。抵抗があるのも恐怖があるのもわかる。僕だっていざ首を飛ばす時は躊躇するかもしれない。
だけどいざそういう時になった時に考えを持っておいた方がいい。
2人は信長の傍にいた長秀と利家の記憶を持っているはずだ。
ならツライ事かもしれないけどもう一度それぞれの代行主について考えてみて欲しい。たのむ」
という部分らへんだったみたいだ
最悪じゃないか…
もう本当に確信にせまるセリフ
僕はさぞ渋い顔をしていた事だろう
「申し訳ありませんでした」
そんな僕の前でまつは深々と頭を下げた
頭を下げたまつを見て僕は
「何でまつが謝るんだよ」
そう漏らした
「いえ、盗み聞きをしたのは私ですから」
確かにそうなのだが
違うでしょ…
謝るまつを見て僕の意思は固まった
「まつ」
「はい」
「僕達は本当に未来から来て。その…例えば僕であれば前田利家に成り代わった」
僕はそれからも真実を語った
こんな事僕の判断だけでしていい事じゃないが
僕は打ち明けたかった
数か月程度の付き合いであっても一緒にいるのは楽しかったし
成り行きとは言え体まで重ねてしまった
僕は何かのきっかけもなく自然とまつの事を好きになっていた
前田利家との記憶混同で気になっているではなく
一人の男「西田太一」として「まつ」という一人の女性を好きになってしまった
今の今まで本当の事を言うと幸せな反面辛かった
好きな女性に嘘をつき。偽の夫を演じ続ける
そして演じ続けていると好きになり本気でまつの事を愛してしまっているという状況が
僕は優吾を初めとしたみんなの事など
代行をしている人物の名前や僕達の現代での関係
そして僕の赤裸々な思いなどを包み隠さず全部伝えた
そんな最低な話をまつは黙って、時に頷き最後まで聞いてくれた
「…というわけなんだ」
僕は布団に頭を着け
「ごめんなさい」
僕はいつもの前田利家の口調ではなく太一自身の言葉で謝った
「ごめんなさいというのは、現代での謝罪の言葉ですか?」
「うん。そうだよ」
「そう…そうなのですか」
まつが僕の言葉を聞き目をつむっている
そしてまつは何を思ったのか
僕に突然抱き付いてきた
僕は戸惑うばかりで反応を返すことができない
そんな僕に今度はまつが打ち明け始めた
「私はあなたを…太一様を愛しております」
そのように言ったまつは頬を紅潮させ言葉を続けた
「私の年は16歳で嫁いできたのは14歳の時になります。しかし実際に仕えさせて頂いたのは1年たらずでありました」
そんな話からはじまったまつの話からすると
まつはどうやら15歳の年は現代で言うと花嫁修業をしていて
利家自体とはほとんど顔も合わせたことが無かったそうだ
そして正式に嫁いできたはいいものの
利家は信長の重臣
作戦のさいには中心的な役割を与えられていた利家はあまり部屋に帰ってこなかったらしい
そしてたまに帰ってきても、わき目も降らず槍を振る
そんな日が半年をほど続いた
そして織田信長が織田家という枠組みの中で頭角を現したことで
重臣である利家にも余裕ができ
夫婦の時間というのも増えたのだが
長い時間を微妙な距離感を保ち続けたため
自然というにはならなく
やはりどこか違和感を覚えていたという
そんな時に太一がこの時代にやってきたのだという
「私は最初。利家様が無理をしているのだと勘ぐりましたが
何か違う。やはり人が入れ替わったと考えるのが自然
ですがそのような戯言、と私も考える事を辞めるようにしていたのですが」
まつはクスリと笑い
「本当に入れ替わっていたなんてでも、なぜだか腑に落ちてしました。」
クスリと笑っていたまつの顔は満面の笑みへと変貌していた
「最近の利家様といるのは楽しかったのです。ですがその利家様は利家様ではなく太一様という殿方だった。ならば、私は利家様ではなく太一様を好きになったのだと思います」
「まつ…」
こんな風に言われるとはね
最初に招待の確信をつかれた時はどうなるかと思ったがこうなるとは
「僕もまつが好きだ。利家としてではなく一人の男として」
まつはそんな僕の言葉に目に涙をため
「はい!」
と返事をした
「一つだけ怒っている事と言えば自分から話してほしかったという事ですね」
「ごめんよ。でも不安だったしみんなも不安がるかもしれない」
「はい、わかっています。だから責めはしません。ですが私の心の中でだけで怒らせてください」
僕はもう一度だけ謝った
そして僕らはどちらかともなく口を重ね
ろうそくの火を吹き消し布団の中で互いの感触を感じ合った
隣からは、まつの規則正しい寝息が聞こえてくる
はぁ…どうしよう
先ほどの流れに全くの後悔は無いが
優吾達にどう説明すればわかってもらえるのだろう
…今日は深く眠るのは無理そうだな
今回の話はグダグダかもしれません
ただこれからの展開に必要な話になってくるためそのまま書き進めさせていただきました
最後まで読んで下さりありがとうございました
次話も読んでくださると幸いです




