1-2 帰還-Rückkehr-
1週間の休暇が終わりZ-1のクルーたちはデッキに集まっていた
クルーたちはそれぞれ家族に別れを告げる
それが終わるのを見計らうとディートリッヒは作戦用網に改めて目を通すと襟を正しクルーたちと向き合った
「諸君、よく集まってくれた。本日ヒトサンマルマルよりビスマルクの護衛任務に取りかかる。道中アルディアとの交戦もあり得るだろう、厳しい航海となる。我々は船団の外での警戒を担当する、僅かな変化も気を配り緊張感を持って任務にあたってほしい。以上だ」
ディートリッヒが話を終える
「艦長、先発部隊の報告ではアルディアとの交戦の心配はないと言われていましたが」
「ヘンリエッタ伍長、先発部隊が接触しなかっただけであって我々が出会わないわけではない。コロニーを一歩でも出ればそこは最早戦場だ。アルディアだけではない、海賊だっているのだ。用心に越したことはないだろう」
ヘンリエッタは失礼しましたと言って敬礼する
「他に意見のあるものはいるか?」
「発言よろしいでしょうか」
ヨハンが口を開く
「許可する」
「今朝貨物船団から我々の航路上に磁気嵐が発生したという報告がありました。できれば避けるべきであると進言すべきだと思います」
ヨハンはモニターに磁気嵐の進路と航路を重ねた図を表示する
「磁気嵐はもう主相になっているのか、このままでは通信や電子部品への影響も考えると上層部に伝えたほうが良さそうだな。感謝する」
「貴方がZ-1の艦長か?」
声のしたほうへディートリッヒは顔を向ける
「そうだが貴女は?」
黒髪の少女はディートリッヒに敬礼をする。その顔立ちはヘンリエッタにとてもよく似ている
腕には親衛隊の腕章が存在感を放つ
「私はアリス・グーテンベルク少佐、Z-2の艦長を務めることになった」
「グーテンベルク、ヘンリエッタ伍長の親類かな?」
「はっ、妹である」
アリスはヘンリエッタのほうを険しい目つきで一瞥する
ヘンリエッタは少し戸惑うように目を逸らす
「そうであったか、お互いに頑張ろうではないか」
ディートリッヒが右手を差し出す
「こちらこそよろしく頼む」
アリスはディートリッヒの手を握るとヘンリエッタへ向かう
「ヘンリエッタ、グーテンベルク家の恥さらしのお前がどうしてここにいる」
アリスはさっきとはうってかわり厳しい口調になる
「わ、私は....」
「どうしてここにいるのか聞いている!」
アリスが声を張り上げる。その眼差しは紛れもなく敵意をむき出しにしたものだった
ヘンリエッタは歯を食いしばると姿勢を正す
「私はヘンリエッタ伍長として己の可能性を証明するためにこのZ-1のクルーを志願しました!」
軍人の顔つきとなり己の意志を妹に伝える
「己の可能性?はっきりと言わせてもらう。ヘンリエッタ、貴様は戦場に赴くには相応しくない。グーテンベルク家の中でも最も武芸に劣っている貴様などZ-1のクルーの足手まといになるだけだ。生半可な覚悟で任務にあたるのであれば今からここを立ち去れ!」
アリスの言葉にヘンリエッタは思わず黙る
「お言葉であるがアリス少佐」
「なんだディートリッヒ大佐」
「近代戦において兵士一人一人の技量や身体能力はもはや意味はほとんど成さない。必要なものは責任感と義務感であると私は思うがね。それにヘンリエッタ伍長は私たちZ-1のクルーの中でも優秀な人材だ、失っては困るのだよ」
「ほう、それで?」
アリスが挑戦的な態度でディートリッヒを見下す
「今後我がZ-1のクルーを愚弄するのはやめていただきたい。それでも続けるようであれば例えヘンリエッタ伍長の親族であったとしても必要とあらば私は容赦無く引き金を引く」
ディートリッヒが殺気を放つのをアリスは感じ狼狽える
「ほぅ、だが貴様もタダではすまんぞ?」
「構わぬさ、この世に未練などないしクルーたちを愚弄する輩に一死報いれば本望だ」
「おう嬢ちゃんヤツの腐れ縁から忠告だ。ディートリッヒはやると言ったら絶対やる男だ。下手に噛み付いたらとんでもねぇことになるぜ」
オットーがアリスへ向けて忠告する
「フン!精々己の可能性とやらを証明してみせることだな」
アリスはそう吐き捨て逃げるように去って行った
「艦長、ありがとうございます」
ヘンリエッタが弱々しくディートリッヒに感謝の言葉を告げる
「気にすることはないさ、私も少し彼女の言い方に腹が立ってしまった。妹に対し無礼を働いて申し訳なかった」
ディートリッヒは申し訳なさそうに頭をかく
「まぁいいじゃねぇか、とりあえずさっさと出港準備に入ろうぜ」
オットーは二人の肩を叩くとZ-1へと入っていった
「各員、用意はいいか?」
ディートリッヒは席に座ると宇宙服のヘルメットを装着する
「タキオンエネルギー100%。各エネルギーモジュール異常なし。増設ブースター異常なし」
ヘンリエッタがキーボードを叩きながらシステムをチェックする
「各兵装をニュートラルからセーフティーに切り替え、格納完了。出港完了次第デブリ排除のためオートモードに切り替えを予約」
ゲオルグもモニターを見て兵装をチェックする
『こちら整備班、ワルキューレ隊のフォッケウルフの固定が完了したぞ。いつでもいける』
『おいおやっさん、シートに座れよぎっくり腰なんだからさ』
『うるさいわい!わしはまだまだいける!』
部下に言われアドルフはモニター越しで青筋を立てる
「よろしい、ヨハン。いけるな?」
「出力安定、操縦をオートマチックからマニュアルへ切り替え。いけます」
Z-1の船体はアームに持ち上げられカタパルトへとゆっくり移動する
「カタパルトと接続完了、タイミングはこちらへ譲渡されました」
ヨハンの報告を聞きディートリッヒは満足そうに頷く
「Z-1、発艦する!」
「了解!」
Z-1のブースターに火が灯る
しかしその火が急に消える
「Z-1、エネルギー出力が急激に低下!」
ヘンリエッタがエラーを報告し原因を探す
「整備班!至急対処を願いたい!」
ディートリッヒが整備班に対応を求める
『こちら整備班、エネルギー出力低下だぁ?一旦タキオンエネルギーから核融合エネルギーに切り替えてみろ!』
アドルフは乱暴に言うと通信を切った
「タキオンエネルギーを核融合エネルギーに切り替え完了、エネルギー充填率100%。出力低下見られず」
ヘンリエッタはエンジンを切り替えると再びブースターに火が灯る
「はぁ....改めてZ-1、発艦する!」
ディートリッヒはため息混じりに言うとカタパルトはものすごい勢いでZ-1を宇宙へと放り投げる
凄まじいGに歯を食いしばりながら耐える
すると急にGが弱まり宇宙空間へと到達した
Z-1のブースターの火はさらに強さを増すと取り付けられた増設ブースターもそれに合わせるように出力を上げた
シャッターが開くとそこは星々が輝く宇宙空間であった
「デブリ排除モード作動、空間姿勢システム正常に稼働」
漂うデブリを撃ち落としながらZ-1は宇宙の闇をいく
周りには僚艦が次々と宇宙に放たれ隊列を組む
「ヨハン曹長、光信号をお願いしたい」
「了解、なんと打ちますか?」
「よろしく頼むと」
Z-1の船体に取り付けられたライトでモールス信号を打つ
それに気づいたのか僚艦からもよろしく頼むと返ってくる
ディートリッヒは気分良く僚艦へ向けて敬礼する
増設ブースターの燃料が底を尽きたのかモニターにアラームが流れる
「増設ブースター残量なし、パージします」
ヘンリエッタがスイッチを押すとZ-1後部に取り付けられた増設ブースターの接続部が爆発し切り離される
「各員厳戒態勢を解除する。申し訳ないがワルキューレ隊は哨戒を頼む」
「あいよ、ワルキューレ隊。哨戒班を編成するぞ」
オットーがメタルナイト部隊を集める
ディートリッヒは立ち上がり艦長室へと向かうため廊下のリフトに手をかけ廊下を進む
しばらくするとオットーが追いかけてきた
「おうディートリッヒ!」
「なんだオットー、サボりか?」
ディートリッヒは手すりにフックをかけ壁に寄りかかる
「まぁな、全部部下に押し付けてきた」
オットーは悪びれることなく豪快に笑う
「相変わらずお前ってやつは...」
ディートリッヒはため息をつくと窓に浮かぶ星々を眺める
「久しぶりの戦場だな」
オットーはディートリッヒの隣に来ると手すりにフックをかけタバコを取り出し口にくわえるとライターをつける
フゥーっと息を吐くと煙が換気口へと流れてゆく
「オットー、ここは禁煙だぞ」
ディートリッヒが注意するとオットーはしまったとばかりに携帯灰皿にすてると何事もなかったように装うとディートリッヒは懐から電子タバコを取り出し電源をつける
「おいディートリッヒ、ここは禁煙だぞ」
ディートリッヒは気にせず吸う
「残念ながら電子タバコは煙は出ないのだよ」
ディートリッヒが得意げな表情を見せるとオットーはつまらなさそうに顔をしかめる
「ケッ!そんなのありかよ」
腕を組み外を眺める
宇宙で見た星々はコロニーから見たものに比べどこか冷たく闇はどこまでも広がり終わりが見えなかった
よくある昔のコズミックホラー映画を見てはその闇に恐怖したものだった。確かに内容は恐ろしかった、だがそれ以上にアルディアの存在がある以上それは現実味を帯びていて自分の置かれている立場を再確認させられたことのほうが大きかった
「まぁいいや、やっぱ宇宙はいつ来ても不気味だよな」
オットーはディートリッヒの気持ちを悟ったのか思っていたことをそのまま口に出した
「そうだな、一寸先は闇だ。あのデブリの影にアルディアがいてもおかしくはないのだな。私たち人間は皆宇宙へ一歩出たときから死と隣り合わせだ」
「早くアルディアを始末してみんなが安心して渡れる宇宙になって欲しいもんだな」
「ああ、だがきっといつかまた別の脅威が現れるかもしれないな」
ディートリッヒは昔見たコズミックホラー映画を思い出し悲観的になる
果たしてアルディアの殲滅を我々人類は無し得ることができるのだろうか?言葉は通じず容姿も大きく異なる彼らとこの戦いに折り合いをつけることはできるのだろうか?
幾つもの不安がディートリッヒの脳裏を掻き回す
「ったく、どうしてお前さんはこう悲観的なんだ。またアルディア野郎みたいなのがきたら片っ端からぶっ潰せばいいだろうに」
「わかってる!わかってるさ!」
ディートリッヒは柄にもなく声を荒げる
未だに頭から離れることの出来ない妻マリアの死の光景を反芻させながらディートリッヒは続ける
「でも怖いんだよ。私たち人類はただでさえアルディアの脅威に怯え日々誰かが命を落としている。この航海でも間違いなくZ-1のクルーの誰かが死ぬだろう。なぁオットー、教えてくれ。あと何人死ねばこの戦いは終わるんだ?あと何匹アルディアを叩けば人類は勝利するんだ?」
ディートリッヒは乱暴にオットー肩を掴む
オットーはディートリッヒに肩を掴まれたまま黙る
「マリアもヤツらに殺された。仕方がないといえばそうだ。誰だってそうなるときはくるでも!」
ディートリッヒは膝から崩れ落ちる
オットーはただ呆然と立っているだけであった
「どうしてもケジメがつけられないんだ....忘れようともした!でも!でも!」
オットーは泣き崩れるディートリッヒの前にしゃがみ込む
「なぁディートリッヒ。一人でも多くマリアやお前さんみたいなヤツを減らすために俺たちがいるんだ。それくらいお前にもわかってるだろう?」
そう優しく言うとオットーは立ち去った
『第一回艦内放送の時間がやって参りました。メインパーソナリティは私オペレーターのヘンリエッタ・グーテンベルク伍長が務めさせていただきます』
軽快なジャズの音色がZ-1の空間を満たす
ディートリッヒは静かに立ち上がると艦長室へと向かうとデスクからウィスキーを引っ張り出し口に流し込んだ
「隊長、哨戒隊の編成が完了しました!」
ワルキューレ隊の新人、ブルーノが報告にやってきた
オットーは鼻歌で艦内に流れるジャズミュージックを歌いながら紫煙を吐き出す
手にはコーヒーの入った紙コップが握られている
「おう、ご苦労だったなブルーノ。俺も見送りに行くぜ」
コーヒーを一気に飲み干すとゴミ箱に放り投げ見事に入る
オットーは大人気なくガッツポーズを決めるとメタルナイト用増設格納庫へ向かった
「おい哨戒隊のお前ら、たかが見回るだけだからって気を緩めるんじゃねぇぞ」
「「「はい!!」」」
オットーが檄を飛ばすとブルーノ、クリストフ、カールんl3人の哨戒隊が力強く返事をする。その中には先ほど報告にきたブルーノの姿もあった
「おいブルーノ、帰ってきたら一杯付き合えよ。俺が奢ってやるから」
「いえ、自分はその」
ブルーノは遠慮しようとするが他の隊員にどつかれる
「いいから付き合ってやれよ、入隊祝いみたいなもんだしな」
「そーそー、隊長酒癖悪いからそこだけ注意しとけよ。上手くおだてりゃ高い酒奢ってもらえるぜ」
他の隊員たちが笑いながら付き合うことを進める
「ではお言葉に甘えて」
ブルーノは少し控えめに言うとオットーと隊員たちにバシバシと叩かれて応援された
「ではいってきます」
ブルーノたち哨戒隊は待機メンバーに敬礼をすると格納された新型メタルナイト、フォッケウルフの背中にあるコクピットに入りシステムを起動する
オットーがアドルフにハッチを開くようにお願いするとアドルフは舌打ちしてスイッチを押すとオットーたちのいる船底に取り付けられた増設格納庫が開く
「いいかお前ら!目的はあくまでも哨戒だ!アルディアの野郎を見つけても倒そうとは思わず逃げて戻ってこいよ!」
オットーが力強く叫ぶとそれに応えるように哨戒隊のフォッケウルフたちは親指を立て武器格納庫からそれぞれ必要な装備をホルスターに納め出撃した
「さて、敵さんはどこかな」
ブルーノはレーダーでアルディアがいないかを警戒しながら宇宙の闇の中を進む
『こちらワルキューレ8、異常なし。オーバー』
『こちらワルキューレ6、こっちもなにもないな。オーバー』
「こちらワルキューレ10、異常....いや待て!」
デブリが広がる空間の中で一際輝く群れを見つける。その群れはデブリ地帯をかいくぐりながらまっすぐにZ-1の方向へと向かっている
「こちらワルキューレ10!アルディアだ!アルディア接近!」
『ブルーノ逃げろ!』
ワルキューレ6のカールに言われるよりも早くブルーノはスピードを上げて撤退する
だが後ろには高速でファイター型アルディアが2体追いかけてくる
「おいおい!冗談じゃねぇ!」
ブルーノは機体の上体を捻らせファイター型を撃ち落そうとするが絶対障壁に阻まれダメージが通らない
ブルーノは舌打ちしハンドグレネードを投げつけるとさらに速度を上げる
ファイター型たちがグレネードと重なった瞬間凄まじい力を持った爆発が襲い粉々に砕く
「やったぜザマ見ろ!こちらワルキューレ10、ファイター型を2体撃破!これより帰投する」
『ヒュー!やるじゃん新人!』
ワルキューレ8のクリストフが下手くそな口笛を吹く
『帰ったら俺もお前に酒を奢ってやるぜ!』
カールが冗談っぽく言ったそのときだった、ブルーノ機の右腕が爆発を伴い引きちぎれる
「え?」
『ブルーノ!!』
ブルーノにはなにが起きたか一瞬理解できなかった。コクピットのなかはアラートがけたたましく鳴り響き赤いランプを灯す
とっさに振り向くとファイター型を取り巻きにマザー型が接近しつつある
ブルーノは無理やり気を落ち着かせ急いで右腕をパージするとホルスターから多目的ランチャーを抜き散弾を装填して構えると接近してきたファイター型を撃つ。しかし致命的なダメージにならずファイター型はどんどん近づいてくる
『まずい、逃げるぞ!』
カール機がブルーノ機を引っ張り上げる
『後ろは任せろ!』
クリストフ機がライフルを構えフルオートでファイター型を撃ったところでZ-1との通信可能範囲にまで到達した
「こちらワルキューレ10、アルディアに遭遇!至急艦隊に報告を!」
『こちらZ-1オペレーターのヘンリエッタ。状況は把握している、哨戒隊は速やかに撤退しZ-1との合流を!』
『こちらワルキューレ8、増援はお願いできるか?』
『すでにオットー中佐率いる増援部隊が向かっている。今からランデブーポイントを送る。オーバー』
『感謝する、ワルキューレ8アウト』
「ワルキューレ10アウト」
『カール、ブルーノ。聞いたか?隊長さんが裸でぶっ飛んで行ったそうだぜ?』
『おいおいクリストフ、マジで真っ裸か?』
カールが冗談っぽく言いながらブルーノ機を引っ張る
「カールさん、クリストフさん。さすがにパンツくらいは履いてるでしょ」
ブルーノは散弾でアルディアを撃ち抜き可能な限り数を減らす
『こちらワルキューレ1オットー機だ!おいクソガキども、息してるか!?』
「こちらワルキューレ10、全裸で増援感謝します隊長!」
オットー機は対装甲カッターを両腕から展開するとファイター型の体をやすやすと切り裂き振り向かずに背後にいるアルディアをライフルで撃ち抜く
『全裸で増援感謝しますじゃねぇよ!とにかく撤退だ!帰ったらお前ら全員おやっさんの手伝いだからな!』
『うわ、マジかよ』
『あー俺ここで死にたくなってきた』
「隊長、飲みに行く件は」
『あ?ねぇよそんなもん』
「あんまりだー!」
ワルキューレ隊の奮闘もあってファイター型の数も徐々に減ってゆく
背後にはZ-1が対空防御をしつつ増設格納庫がビーコンを出して受け入れの準備をしている
『おらブルーノ、先に行ってろ!』
クリストフ機に放り投げられたブルーノ機はバランスを保ちつつ格納庫に収納された
「こちらZ-1、各艦に通達。アルディア接近中、至急迎撃を!クソ!」
ディートリッヒの耳に突如ノイズが走る
「ヘンリエッタ伍長!現在位置は!」
ディートリッヒはインカムを投げ捨てる
「現在日本コロニー近辺、大和宙域に入りました。これは!?」
ヘンリエッタは驚き目を見開く
「どうした!」
「磁気嵐です!それも大型の!」
「仕方がない!近くの艦に接触回線を繋げ!レーダーやセンサーはここでは使い物にならん!砲撃は目視と手動で行う!」
「了解!各員対空防御を強化しろ!ありったけの弾をばら撒いてヤツらを近づけさせるな!」
ゲオルグが艦内の砲撃手たちに指示を送る
遠くからZ-2の接触回線用のワイヤーがZ-1にくっつく
「艦長!Z-2からの接触回線入りました!」
「繋いでくれ!」
『こちらZ-2艦長アリス・グーテンベルクだ。状況は把握した、これより本艦は旗艦の援護に入る』
モニターにはZ-2のアリスが映し出される
「こちらZ-1艦長ディートリッヒ・フォン・フリードリヒ。援護に感謝する」
『ディートリッヒ艦長』
「なにかね?」
『姉を、ヘンリエッタをよろしく頼む』
「そちらこそご武運を」
そう言って接触回線を切った
遠くのほうではZ-2がメタルナイト部隊を展開し迎撃体制に移行している。じきに更なる援護も期待できるであろう
「各員、できるだけ数を減らせ!」
「ですが艦長、タキオンエンジンの修理がまだ終わっていません!」
ヘンリエッタは整備班と通信しながらタキオンエンジンの状況を説明する
「アドルフ機関長に接続してくれ」
「了解!」
『なんじゃディートリッヒ!こっちは今忙しいんだ!』
アドルフは汗を吹きながらモニターに顔を出しディートリッヒに怒鳴りつける
「忙しいところ申し訳ない、タキオンエンジンの修理状況は?」
『タキオンエンジンならあとちょっとだ。そうだな、最終調整のところだからあと30分か』
「では10分でお願いしたい」
『じゅ、10分だぁ!?無茶言うじゃねぇか!』
アドルフはモニター越しで机に腕を叩きつける
ディートリッヒだって無茶であることは充分理解できていた。しかし今の状況ではどうしてもタキオンエンジンが必要だったのだ
「わかっている、だがアルバトロスという最高傑作を作った貴方ならできないことはないでしょう」
ディートリッヒの言葉に気分をよくしたのかアドルフは余裕のある笑みを浮かべた
『お前さんわかってるじゃねぇか。おい野郎ども!10分で仕上げるぞ!』
おう!と機関士たちが声を張り上げペースを上げてゆく
「アドルフ機関長、感謝する」
アドルフとの通信を終えたときだった
対空砲を避けつつ高速で艦橋にまでアルディアが接近してくるとディートリッヒはそのファイター型アルディアと目があった気がした
ディートリッヒはまっすぐとアルディアを睨みつける
「10年ぶりだな、アルディア」
ディートリッヒは改めて戦場へ帰ってきたのだと実感した