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自己像幻視

作者: 水無月 暦

「奥様の死の真相を知りたくありませんか?」


フードを目深にかぶった怪しげな男。

我が家を訪ねてきたその男は挨拶も早々に用件を切り出した。


妻が自室で首を吊ったのを発見されたのが一週間前。

遺書もなく不審な点はあったが、争った形跡がないのと妻のうつ病の既往歴から

警察は事件性はないものと判断、そして最終的に自殺と断定した。


「奥様は不運にもドッペルゲンガーに遭遇し、そして自殺するよう誘導されたのです。」


「ドッペルゲンガー?」


ドッペルゲンガーとは自分そっくりの姿の化け物で、出会ってしまうと死んでしまうといわれている超常現象のひとつだったと思う。

男が言うには、ドッペルゲンガーは自分より自分の事をよく知っているらしい。

そして出会った自分のトラウマや劣等感を煽り、言葉巧みに死へと導くのだと言う。


「ドッペルゲンガーは奥様をそそのかしました、貴女は真実の愛を探すべきだと」


「ドッペルゲンガーは奥様をそそのかしました、貴女はもう歳なのだからお金がないと相手にされないと」


「ドッペルゲンガーは奥様をそそのかしました、貴女はもう歳なのだから子供をつくるなら最後のチャンスだと」


子供が出来ない私に不満をもっていた妻は、私に隠れて若い男と浮気を繰り返し預貯金を貢いだ。

そしてまもなく子供を妊娠、しかし相手の男は妊娠が発覚すると一切連絡がとれなくなった。

お金もなくなってしまい中絶する事もできない、妻は実家に泣きついたが逆にろくでなしと罵られ絶縁された。

その頃から精神を病み病院通いを繰り返すが、一週間前についに自らの命を絶ったと言う訳だ。


たしかに男の言うとおり司法解剖の結果、妻が妊娠していた事がわかった。

妻の家族からは謝罪があり、妻の浮気と絶縁の事実を知らされた。

管理を任せていた家族の口座のほぼ全てに残高はなく、金庫からは大量の借金の明細が出てきた。

妻が死んだ事より、これらの事実のほうが私にはショックだった。


信じたくはないが全て事実である。

私は最愛の妻に裏切られ、そして多額の借金を背負った惨めで孤独な中年になったのだ。

あらためて事実を再確認させられた私は、嗚咽を漏らしながらその場に泣き崩れた。


「貴方にはまだ最後の仕事が残っていますよ。」


男は優しくそう言うと私に包丁を手渡した。


「なんだよ、これで相手の男に復讐しろとでも言うのかっ!」


私は激しい怒声を上げ男に包丁を突きつけた。


「だいたいお前は何者なんだよ!」


目深にかぶったフードを強引に脱がす、するとそこには見慣れた男の顔があった。


「あぁなるほど、そういう事か・・・」


私は持っていた包丁をゆっくりと逆手に持つと、そのまま自分の胸に突き立てた。














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