私にしか果たせない使命
冬と表せるような、対照的な様子だ。
その彼女が右手に持っているものは、剣道の竹刀……いや、違う。黒い日本刀。
「え。だ、誰ですか?というかそれ」
日本刀。それを認識した瞬間、混乱でつい声が出てしまう。敵襲!?
「あ、ヒナッち!待って待って。もーー驚かさないでよ、レイナ」
「……驚かせたつもりはないが」
「そんな物騒なもの持ってたらヒナッち驚いちゃうでしょ」
「ヒナッち……君が新入生の足立ヒナか」
無表情で彼女はそう言う。
な、なんだ。敵襲じゃないんだ。よかった……。
「は、はい!南高校から来ました、足立ヒナです」
レイナと呼ばれている彼女は日本刀を空席に立てかけ、丁寧にお辞儀を返した。
「八重坂レイナだ。元北高校生だ。魔法少女になって今月で四カ月目になる」
八重坂レイナ。
突然、頭の中でその名前について、取っ掛かりのある記憶が呼び起こされた。
私は彼女を知っている。
学校に行く準備をしながら朝食を取っていた時、ぼんやりとした視界に映るテレビ番組。そこには、確かこう書いてあった。
「北高校の天才、八重坂レイナ選手。入部四カ月で全国剣道大会を制覇」
隣町の高校の子だ。しかも、彼女は同い年なのに、もうアスリートのような華々しいキャッチコピーをつけられている。
住む世界が違う。そう思った記憶が、彼女の名前を心の奥にひっそりと刻みつけていた。
「レイナちゃんってあのテレビに出ていたレイナちゃんだよね。剣道部の」
「ん……?ああ、私だ。知っているとは驚いた」
有名人ばっかり。既視感のある人ばかりのせいで、初めましての挨拶をしている感じがしない。
「私たち二人が、このクラスの魔法少女メンバーだよ!想像してたより少ないでしょ?」
「確かに、思ったより少ないかも」
「だよねー。私も魔法連の人たちに言われて驚いたもん。あなたたちは数少ない、選ばれた存在だーって。だから、ヒナッちも選りすぐりの精鋭なんだよ!」
ゆうかちゃんとレイナちゃん、確かに彼女達は選ばれた存在だ。成績優秀かつクラス一の人気者と武道を極めた達人の女の子。魔法少女のことはまるで知らない私でも、彼女達はきっとその器であると断言できる。
だけど、それに比べて私には本当に誇らしい才能らしいものが一つもない。
なんで私なんかが……。
「皆さま、お揃いでしょうか」
後ろを振り返ると、いつからそこにいたんだろう。白衣を着て、般若面をつけた女性が教卓に立っていた。
ひんやりとした空気が混じってくるような、雰囲気の変化を感じる。
「足立ヒナ様、初めまして。この魔法少女育成高等学校にて、魔法等のご指導を担任させていただく、ルツボと申します」
驚いた。この学校にも担任が付くんだ。当然かもしれないけど、ついこの前まで私の担任だった、ムキムキで体育担当の高橋先生(みんなからはムッキーと言われていた)とは、当然だけど雰囲気が違う。
神社の神主さんみたいな雰囲気だ。
「は、はじめまして」
私が会釈を返すと、物言わない般若面がこちらを見つめてくる。
気まずい……。
「足立ヒナ様、あなた様にはこれからたくさんの試練が待っております。ですが、どうかくじけずに、あなた様にしか果たせない使命を果たしてください」
……私にしか果たせない使命。
その魅力的で、私を縛り付ける言葉に、感情の琴線は奪われた。
「ちょっとルツボッち、いきなり意味深な発言!ヒナッちを怖がらせちゃだめでしょーーーーー」
ゆうかちゃんが気さくに何か話してくれているけど、いまいち私の頭の中にはその内容が入って来なかった。
「私にしか果たせない使命……?」
目の前のこの人の言葉を飲み込んで、そのまま吐き出したみたいに繰り返した。
「おっしゃる通りです。いずれ、お分かりになるかと」
私にしか果たせない使命――それはいったい、なんなのか。
そう聞こうとした。その矢先に
「キーーーーンコーーンカーーーンコーーン」
どこにでもあるチャイムが少しだけ高らかで歪に流れた。
「では、授業を始めます」
言葉は、気勢を削がれてそのまま飲み込まれた。だけど、私の心のなかには、感じたことのないざわめきだけが取り残されていた。




