<長女6歳、次女0歳 12-3月>
12月初旬、出産予定日が近づき、地域出産医療センターに入院した。入院の2週間前から、母は自分の仕事の休暇をとって、私たちの家でチヒロの世話を手伝ってくれていた。
入院から5日目に陣痛が来て、子宮が収縮するような絞られるような痛みが数時間おきに数回続いた後、骨盤をジャッキで拡げているような鈍痛が加わった。8時間の陣痛を経て出産に至った。「可愛らしいお嬢さんですよ」看護師さんの声がして、赤ちゃんが胸の上に乗せられた。生まれたての娘は、手足も体も細く(体重は2800 gだった)、赤紫色でくしゃくしゃの顔で泣いていた。
出産翌日の午後、チヒロと母からビデオ通話がかかってきた。チヒロは、まだ未就学児なので、感染予防や安全のために院内へ立ち入れない。お見舞いに来れないので、その代わりに、チヒロに元気な顔を見せてあげてと母から言われていた。全身がまだ痛むし、授乳のために起きて寝てを繰り返しているので怠い。チヒロを産んだ時も痛かったが、今回は、痛みよりも怠さが増しているように感じる。インカメラに映る顔はまだ元気ではなさそうに思うが、笑顔を作るように努めて、手を振る。
「チヒロ、元気にしてる?」
「うん」
チヒロも手を振り返しながら、画面をつかむ。急にチヒロの顔がドアップになったので笑ってしまった。笑うと身体に響いて痛い。
「おばあちゃんと仲良くしてる?ちゃんと言うこと聞いてる?」
「うん、大丈夫だよ」
ね、っと母の顔がある方向を向いて頷いているが、母の顔は画面からフレームアウトしたままだ。
「今日ねー。保育園でクリスマスの歌、歌ったよ」
そう言って、少し口ずさむ。チヒロは、歌が上手だ。母も、上手ね、とチヒロを褒める。
「ママ、赤ちゃんは?」
「ちょっと待ってね」と言って、ベッドから立ち上がり、おくるみに巻かれて寝ている赤ちゃんにカメラを向けて画面に映す。
「赤ちゃんだー」
チヒロの声がする。「可愛い?」と聞くと「うん」と返事が返ってくる。
「チヒロ、妹の名前、どれがいい?」
平仮名で名付けの候補を書いた紙を映す。
「ちあき、ちづる、まひろ」
チヒロが読み上げる。
「マヒロがいい!」
「じゃあ、この子はマヒロちゃんだね」
チヒロは、マヒロに「お姉ちゃんだよー」と声をかけ、さっき褒められたクリスマスの歌を歌って、聞かせてあげていた。
私とマヒロが退院してから約2週間、チヒロの冬休みが明けるタイミングで、母は実家に戻って行った。チヒロにも簡単な手伝いをしてもらいながら、3人での生活が始まった。マヒロは、母乳もミルクもよく飲んだ。細かったマヒロの手足は、ふわふわとしたパンのように丸みを帯びてきた。ミルクをあげるのは、チヒロのお気に入りのお手伝いだったのだが、生後3ヶ月ごろからマヒロが哺乳瓶を奪い取るようにして飲むようになったので、早くも姉妹喧嘩が始まった。
マヒロが一歳を過ぎる4月に職場復帰することにし、それまでは育児休暇を取ることにした。体調が良ければ、前倒しも考えたが、チヒロを産んだ時に比べると、やはり体力の回復が遅いように感じる。その分、チヒロの卒園と入学式準備には、時間的な余裕を持つことができる。
保育園の卒園式の日、久しぶりにチヒロの着替えを手伝った。青い糸でチェック柄が入った紺色のワンピースは、背面にファスナーがついていて、チヒロの手が届かなかったからだ。髪にも青いリボンを編み込んだ。いつもよりおしゃれをして、大人びた表情をして見える。
最近、寝返りを覚え始めたマヒロがベビーベッドの中で「あーあー」と叫んでいる。身体が重たいのか、自力でひっくりかえるのはまだ難しいようだ。チヒロが背中側からヨイショと押してやると、叫び声が止まる。チヒロは、マヒロをつついて遊び始めた。ふわふわの手足の触り心地とマヒロがじっと見てくるのが面白いらしく「ずっとこれやりたいくらい」と言う。私もそう思う。マヒロが来て、あの夕暮れの日に願った景色が実現している事に気づいて、ふと目頭が熱くなった。




