3 プリペア
同僚の誘いを断り、会社を出て町田駅へと向かう。
帰宅後はやる事が多いのでそういうウザい誘いを断る為に、須藤はウィーガンを装い会社の昼は主にナッツと海藻やサラダにしている。
顔も見られたく無いので前髪を下ろし、顔を印象を眼鏡に引きつける為、太目で赤茶のボストン型のセルの眼鏡をセレクトしている。
目は悪く無いので伊達眼鏡だ。
新百合ヶ丘駅からすぐのアパートに入るとシャワーを浴び、ウェリントン型の白っぽいフレームの眼鏡に取り替える。
電熱パンツ・ベスト・グローブを装着する。その上から800フィルパワーのダウンを着込み、バラクラバを被りその上からヘルメットを被る。
ジャイロキャノピーをアパートの駐輪場から引き出しエンジンをかけ、暖気がてらゆっくりと渋谷に走り出した。
こいつはバイト先の古くなったジャイロキャノピーを安く譲ってもらい改造した。
配達でヘタっていた50ccのエンジンを外し、150ccのエンジンに載せ替えたので軽快に走る。
足回り類は新品に交換している。
神奈川でナンバーを取得する際に80ccとして登録した。
1時間ちょっとで渋谷に着く。
道玄坂のバイト先のビルの地下にバイクを入れ、階段を上がって事務所のドアを開けた。
「おはようございます」
この業界は夜でも最初の挨拶は「おはようございます」だ。
「おっ良ちゃん!?今日は早いね!」
社長の高崎が今日の配達分を仕分けている。
「道が空いてたんで」
「いやぁ助かった、今日はちょっと多くてね。申し訳ないけどもう行けるかな?」
「はい、じゃあすぐに着替えますね」
ロッカーに入りダウン、電熱服を脱ぎ会社のジャンバーを着る。おつまみを会社のジャイロキャノピーに入れて行く。
須藤は表の会社が終わった後に、ここ渋谷でバイトをしている。
この会社は飲み屋やクラブなどにおつまみを届ける仕事だ。渋谷のおつまみはほぼこの社長が仕切っている。渋谷中を配達するのでかなり色々な情報が得られる。
勤めも1年を過ぎると配達先の店のスタッフ達とも顔馴染みになり、色々な噂話を仕入れる事が出来た。
八州連合会の集金の話もその一つだ。
「襲った奴は親族皆殺しになっちゃうね!」
「確かにデカい金額だけど襲うとかムリでしょ!」
と皆が言っているが俺にしてみれば、襲われ無いと思っている奴らが狙い目だ。復讐の為の資金にする事にする。
計画を実行に移すまで更に2年かかった。
とにかく慎重に慎重を重ね調査をした。
ルートや集金日のパターンはもとより、集金人個人の情報や対抗している奴らの事も徹底的に調べた。
クリスマスが終わりガッポリと儲かった今週の金曜日が狙い目だ。雨と言うのが素晴らしい。犯行音は聞こえないし、目撃者も少ないし足跡も洗い流してくれる。
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夕方から雨が強く降り始めた。
11時をまわり相模原の実家からNボックスを出し、当たりを付けていた町田の農家を目指す。
家に近づく前でライトを消す。
納屋に車を入れ。軽トラに盗んでおいたナンバーを取り付けエンジンをかけ、ゆっくり家を出たところでライトを点け渋谷へと向かった。
八州連合会のクリスマスの売り上げを頂くことにする。