2 ヴェンデッタ
須藤の実家は輸送機で有名な王菱重工の部品を製造している従業員3人の小さな町工場だった。
王菱重工に直接納品するのでは無く東ノ精密に部品を納めている下請けだが、機関の肝になる高精密な部品を担当している。これは親父が借金をしてまで手に入れたドイツ製の加工機械の性能と、それを扱う3人のエキスパートに支えられていた。
会社の業績もかなり良かった。
親父が事故死するまでは・・・
俺が大学2年目の冬の出来事だった。
東ノ精密の取引先忘年会の夜、酔っ払って道の真ん中で寝ていた親父をトラックが轢いた。
逃げた犯人は捕まらなかった。
外国語を話していたらしかった。
その後は機械購入の為、融資した金の一括返済を銀行に求められた。
親父の生命保険でも払えない額だった。困った母親が東ノ精密の金本社長に相談した。
機械を一旦東の精機で買取りレンタルする案を持ちかけた。
困り果てていた母はすぐに飛びついた。
そのあとはお決まりのパターンだ。
翌週には機械と従業員は東ノ精密に持って行かれた。
母が社長に預けた土地の権利書は銀行に渡った。
相州銀行融資課の新井課長の馬鹿にした顔が目に焼き付いている。
母親は心労が祟り3ヶ月後親父の後を追うように他界した。
親父の生命保険や土地の売却で機械の借金はペイ出来た。
大学生だった俺は母親の生命保険のおかげでそのまま学校に通えた。
卒業後は工場を引き継つもりだったので、昼は家の工場で働くため夜間大学の工学部に通っていたのも良かった。
夜学は圧倒的に授業料が安いのだ。
あと、そのまま家に住む事が出来たのも幸運だった。
母屋と工場がありその隣に資材置き場兼駐車場があったのだが、この2つの土地は買った時期が違い別登記となっていたのだ。
相州銀行の新井が持って行ったのは資材置き場兼駐車場の方で、10年前ぐらい前の登記なので工場創業年から見てもおかしいと気が付かなかった新井のミスだ。
後日、責任を取らされ小さな支店に飛ばされたらしい。
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色々落ち着かないまま一年経った。
親父の一周忌に人目を避けるように裏口から来た、元従業員の3人から聞き捨てならない話しを聞いた。
あくまで噂だが・・・
と言う事だったが・・・
うちの機械と技術が欲しかった東ノ精密と、開発予定の噂があるウチの土地を欲しかった相州銀行が親父を嵌めたらしい。
確かに引っかかっていた点があった。
そもそも親父はアルコールが身体に合わず基本的に飲まないのだ。
あの年はかなり売り上げが良かったので、珍しく飲んだのだろうと思っていたのだが・・・
その話を聞き何かごちゃごちゃしていた思考がストンと収まった。
同時に頭が熱くなり、腹の底からドス黒い炎が燃えてくる。
将来親父を嵌めた奴らに必ず復讐する事を悪魔に誓った。そのため高山の姓から母方の須藤に変えた。
◾️◾️◾️◾️
大学を優秀な成績で卒業した須藤は、東ノ精機の親会社である王菱重工に採用され、生産技術部に所属し3年経った。
「いやぁ、須藤君はなかなか優秀だな!E4新ラインの立ち上げ担当をさせてもいいかもしれないな」
社内に1人社外に1人の愛人を持つ小柳取締役が、稟議書を片手に持ち俺に向かって話しかけた。
「はい、その際は全力で頑張ります」っと新人っぽい返事を返した。
小柳は満足気に頷いた。
その時、定時間の終業の鐘が鳴った。
「では、お先に失礼致します」
「うむ、仕事が終わった者は須藤君みたいに帰りなさい!無駄な生活残業は許しませんよ!」
毎日ダラダラ残って残業代を稼いでいる連中を睨んだ。
自分の机に行きPCをシャットダウンし更衣室に向かった。
品質管理部と業務グループに配属された同期が一緒に更衣室に入った。
「小柳取締役に目をつけられるとは、須藤は出世街道に乗ったな!」
「小柳取締役派閥期待のエースだな!」
「何を言っているんだい僕なんて全然だよ、君達は小柳取締役の大学の後輩、直系じゃないか。俺なんて三流の夜学出の外様だからダメだよ」
「そんな事ないぞ!よし、今日は同期3人で焼肉でも行くか!」
「いや俺は悪いけど遠慮するよ」
「あーそうか、須藤は完全なウィーガンだったな?ところで宗教的にか?」
「宗教じゃ無いんだけど動物性の食物アレルギーでね、すまないね買い物とかあれば付き合うからその時は誘ってくれ」
「ああわかった、お疲れサン!」