12 グリム・リーパー
久々に新百合ヶ丘のアパートに戻りテレビのスイッチを入れる。
玲子にもらったコナコーヒーを入れカロリーメイトを咥えながらリビングに戻った。
ちょうどニュース番組の時間になった。
美人だが左寄りのコメントしか出さない意識高い系勘違いキャスターが、オープニング後ニュースを読みはじめる。
全くメディアの特権階級意識には反吐が出る。
反権力側にいる事がカッコいいと思って、色々拗らせている奴らが多い。日本というこの国が好きだと言うと軍国主義者と決めつける。日本人ファーストと言おうものなら人類に1番2番の順序は無い!などと誰も人類の話なぞしてないのに、しらっと論点をすり替えるとにかく残念なヤツらだ。
ニュースによると渋谷と新宿でここ数日銃撃事件が多発しているらしい。死者は13人・怪我人は36人出ているとの事だ。
八州連合会と四海元の抗争だ。タダでまいたパケが絶大な効果を現し、上手く新宿にも延焼している。
まぁクズはクズ同士潰しあって欲しい。
番組では政府公安部による国家の陰謀説も飛び出してもう妄想の域に入っている。
麻薬入りタバコを作りながら、その他のチャンネルのニュースを流しみる。
ワンカートン作り終えたところで黒のジャージに着替える。バラクラバを首に下ろしネックウォーマーにする。Nボックスに乗り国道246号線を厚木方面に向かい途中の交差点を右に曲がり山側へ向かう。
途中にある何処の会社の駐車場に車を駐車する。
車を下り坂を登ると東ノ精密の正門だ。
守衛が2人常駐している。夜勤は朝6時までの勤務となる。
守衛所が見える所にうずくまる。
30分ほどすると守衛2人がLEDライトを持って工場巡回に出た。
バラクラバをネックから引き上げ素早く守衛所に入る。守衛のテーブルには象印とサーモスの水筒が置かれている。
素早く蓋を外し砕いて粉にしたハルシオンを入れ軽く振る。
そのまま一旦車に戻りカロリーメイトをかじる。
1時間ほどして守衛所に向かった。
横の死角になる位置から守衛所内を覗くと、2人はイスに座り込み寝ている。
防犯カメラを避けて第一工場の納品場ヤード裏口に向かう。
ヤードの鍵を開ける。コレは有力なサプライヤー用にに渡していたキーで、うちの実家も持っていた。本来はいけないのだか親父がマスターを持ち、たまに納品に行く俺用にスペアキーを作っていたのだ。
カメラは外のみで中には無い。勝手知ったる工場を進むと常夜灯越しに防火防音壁に囲まれた機械が見えてきた。
親父が買ったドイツ製加工機だ。
今も王菱重工の心臓部部品を作り続けていることは調達部の同僚から聞いていた。
1か月前に親父の時の設計から少し変更し、更に性能が上がったという事は調達の同僚から聞いている。
旧型は廃棄され物凄い勢いで新型に切り替わっているそうだ。
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東ノ精密に行ったこの機械の担当だった、3人のオペレーターのうち2人は精神を病み自殺した。
ある日突然、最後の1人の河本さんが新プログラムの件で俺を訪ねて来た。
モデルチェンジし親父の時より高性能の物を作り出した事は本当に尊敬する。
河本さんはしきりに恐縮していたが、ポツポツと話し出した。
あの後の東ノ精密は河本さんら3人を奴隷の様に扱った。金本のバックには物騒な奴らが付いており、暴行され脅され監視下に置かれていた。
今日はトイレの窓から脱出して来たと言うことだ。
反社とそこまで繋がっているのはおかしい。東ノ精密は何かあると感じた。
河本さんによると新プログラムには3人にしか絶対にわからない仕掛けがあり、ある数字9つを打ち込むと中の1箇所の加工サイズが変わり、部品の耐久性が時間ごとランダムに80%落ちるグリム・リーパーと言うプログラムを報復の為に仕込んだらしい。
外観的に見分けがつかず測定しにくい部位なので、不具合が出ても中々特定まで至るのは時間が掛かるであろう。と言っていた。
発動させる9の数字は3人のうちでの社員番号で、
「年寄り順の番号から打って下さい」との事だった。
「何かあったら家族をよろしくお願いします」と言い残し帰って行った。
翌日、河本さんは相模川に浮いているところを発見された。
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ノートPCと機械を繋ぎ9の数字を打ち込む。
死神がプログラムを侵食して行った。
PCを閉じて背中に背負う。
工場を出る守衛所を覗き、まだ寝ている事を確認し東ノ精密から立ち去った。