1 雨の夜
12月も4週目を過ぎクリスマスが終わった。
今年は少し雪が降り理想的なホワイトクリスマスだったが、翌日からは雨になった。
予報ではしばらく関東は雨が続くらしい。
雨の中黒のフード付きカッパに身を包んだ須藤良太は2ℓの炭酸水が入ったコンビニの袋をぶら下げ歩道を歩いて行く。
深夜2時の渋谷はクリスマス後で雨という事もあり人影は無い。
松濤地区に入りそのまま真っ直ぐすすみ、蔦の絡まる白い建物の横の陰に入り横の店の様子を伺う。
3年間渋谷にバイトで通ったかいがあった。
チャンス到来だ。
ここ渋谷は新宿程ではないが、夜の商売に複雑な縄張りがある。
人も多いので動く金も大きい。
渋谷を仕切る大勢力の1つ半グレの八州連合会がある。表ではガールズバーやクラブや芸能事務所を経営している。
裏ではドラッグ・売春・賭博などで膨大な稼ぎをあげている。
今日はクリスマスの売り上げの集金の日で、この松濤の店が最後になる。
集金日は毎月変動するが、月末最後の「友引」が回収日となっている事は調べがついている。
ロールスロイス・カリナンが店の少し先に貯まった。須藤の目の前だ。
毎回ここに停める事も調査済みだ。
運転手は車に残りロールスから2人が降りて店に入って行く。
須藤は立ち上がりビルの警備員から拝借した制帽を被りロールスの運転席の窓を叩いた。
「おい!警察だ」
「なんすか?」
顔に入れ墨をした小太りな男がパワーウインドウ下げ不機嫌そうに答える。
「ここは駐停車禁止だ」
「すぐ、退きますよ!」
「じゃあ良いが、念のため免許証いいか?」
「はい、はいわかりましたよ・・ちっうるせぇーな・・・」
男は小声で文句を言いながらセカンドバックに手を伸ばした。
俺への視線が外れたところで、素早くドアを開け紐で首を締め上げる。
もがいていた男から力が抜けると車のキーを取り、車から引きずり下ろしビルの陰でスティレットを心臓にねじ込む。
フックレンチでマンホールを開け中に男を転がした。
店の方で気配がしたので車の陰に隠れる。
さっきの2人が両手でボストンバック下げ店から出て来た。
素早く車の陰から出て後ろからスティレットで心臓を突く。振り向こうとする2人の背後に周り、もう1本づつ心臓に突き立てると目を見開き崩れ落ちた。
ビルの陰に引きずり込みボディチェックをする。
スティレットを抜き2人をマンホールの穴に放り込む。
用意しておいた炭酸水のペットボトルを開けカッパとスティレットに着いた血を洗い、空になったペットボトルを穴に放り込みマンホールの蓋を閉める。
ボストンバックを拾いロールスに乗り込み走り出す。
道玄坂の坂上の方面に向かい、途中のビル脇に停めた軽トラに金を移して行く。
カッパを脱ぎビニール袋に入れエンジンをかけ、下道を使い町田方面へ進む。
町田の古い農家の一軒家に近づく手前でライトを消し進む、軽トラを庭に入れエンジンを切り急いで納屋のNボックスに移しかえる。
ここの家は農業を営む爺さんの一人暮らしだ。普段から軽トラの鍵は差しっぱなしにしている。
一度寝たら起きないが念のため忍び混んで、炊飯器の飯に入れた睡眠導入剤で寝てもらっている。
軽トラのナンバープレートを盗難したものから正規のナンバーに入れ替え、Nボックスの中からガソリン携行缶を取り出し軽トラにガスを入れる。
空になった携行缶をNボックス助手席足元に放り込みながら乗り込み、広い国道を避け相模原へ向かう。
制帽の帽章を取り途中の川に投げすてる。
しばらく道なりに進み小さな工場が併設した家に車を入れ、5往復して荷物を工場の地下室に入れる。
工場の焼却炉にカッパ・ニトリル手袋・着ていた服・制帽・下着・靴下・靴を入れ、ガソリンをかけ火をつける。
風呂場に行き水シャワーを浴びる。凍えそうな冷たさが熱った身体と昂った気持ちを落ち着かせる。
バスローブを着て地下室に降りワイルドターキーライを瓶のまま煽る。
喉を通り腹に酒精が届くと喉と胃が焼けるようだ。
サラミソーセージのビニールを、バック・ワンテンで切り喰らいつく。
咀嚼したサラミをバーボンで流し込み、使い捨てカイロを持ってパイプベットに腰掛ける。
ベットの上の寝袋のファスナーを下まで開き、使い捨てカイロを足元に入れバスローブを脱ぎ寝袋に潜り込む。
雨はますます激しくなり屋根を打つ音が大きくなる。
雨音を聞きながらしばらく寒さに震えたが、カイロとバーボンのおかげで徐々に暖かくなりまどろんでいった。