第97話
エンペル・ギアでの情報収集を終えたカムリィはモデルNを橋渡しにして、無事帰路に就いていた。時刻は二十一時近くを回っており、転生協会は特にブラックでも無いのにリバーシも兼任しているといかに日々が多忙であるかが窺える。
しかし人は慣れる生き物であり、カムリィからすればもう何年も続けている生活だ。今更苦しいと感じる事は無い。それは当然転生協会での生活もリバーシとしての生活も楽しいと思っているからこそなのかも知れないが。
「 (にしても、まさか俺らが受け持つ主人公二人が、エンペル・ギアがリバーシ試験用に用意した内通者だったとはな。ついでに当時あいつらに不合格を言い渡した人が誰だったかも知れたし、十分過ぎる収穫だ。まぁそいつにその時の事を色々聞くってのは、残念ながら叶いそうにないが) 」
結局あの後A⑩号室の担当女性の確認で、手錠双璧の二人及びシルベルス主人公の二人の合計四人が、三年前のリバーシ加入試験に関わっていた事が明らかとなった。
試験の関係者である点は同じなのだが、『受験者』か『内通者』かの違いがある。
ムイ&ロアは当然受験者であり、來冥力も覚醒して才能ありと認定されたが、最終的には不合格となってしまった。
來冥力が覚醒するか否かは本人でさえもその時が来るまでは分からず、受験者は自分が才能ありなのか無しなのか分からず異世界で過ごす事になる。
緊張、期待、不安、あらゆる感情と思考が常に付き纏い、情緒がおかしくなる者も珍しくない。エンペル・ギアからすればリバーシとして必要最低限の精神力を持ち合わせているかどうかを見極める、一つの判断材料になっているのだろう。
そんな中でムイとロアは己に打ち勝ち、運も味方し、來冥力を覚醒させた。本来であれば、その時点で勝ち確定と言っても過言では無い。現に司もカムリィもコハクも來冥力が覚醒し無事候補生になれたのだ。
だがムイとロアはそれでも不合格になった。カムリィの担当女性も戸惑いながら言っていたが、手錠双璧以外にこの事例はなく彼ら二人が最初で最後だったみたいだ。
対してダブル主人公の二名はエンペル・ギアサイドの人間であったとの事。受験者を惑わしたりミスリードをしたりする役割を担っており、人狼ゲームでいうところの狂人が一番近しいポジションだろう。試験内では内通者という呼び方で通っている。
カムリィが試験を受けた時もこのような人物は存在しており、驚きこそしたが情報の一つとしてすぐに受け入れる事はできた。経験が活きたという事だろう。
「 (まぁだがこれであの会長さんが出した謎の一つ『手錠双璧はどのようにして特殊な來冥力を入手したのか』……これに関しては答えが出たな。リバーシ加入試験の舞台となる異世界で試験を受け、その結果來冥力が覚醒した。これが答えだ) 」
謎の一つは解明されたが喜んでいる暇は無い。何しろまだ複数出された謎の内の一つしか判明していないのだから。
残りの謎を明らかにする為にはロア暴行未遂事件の真実も知る必要がある。この謎の答えに辿り着く為には、当時の試験中に四人の間に何があったのかを知れば良い。
「 (だが謎の一つを解いたくらいで喜んでる訳にもいかねぇ。暴行事件の真相に……評価対決に司たちが抜擢された理由……評価対決の開催目的……解かなきゃいけない謎は山積みだ……) 」
そこまで考えた時、ふと背後から女性の声がした。
「カムリィ?」
「……! あ、コハク会長……奇遇ですね、こんな所で」
後ろを振り返るとそこにはコハクが立っていた。買い物帰りには見えず彼女もカムリィ同様に帰宅途中なのだろう。
「ええ、そうね。それと今はもうお互いプライベートな時間なんだから、あなたも私に敬語使わなくて良いのよ。名前も別に呼び捨てで良いから」
「そうか。なら遠慮無く。あんたのそういうところ、本当に助かるぜ」
「……ねぇ、隣良い?」
「ああ。一人で帰るより話し相手居た方が俺も楽しいしな」
「それじゃあ、失礼しまーす」
コハクは嬉しそうにカムリィの右隣まで歩き、その後二人で歩き出した。




