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第94話

 カムリィがロボの頭に手を置くと、その数秒後彼の姿が消えた。リバーシの者しか把握していない転移方法だ。


 茶色の壁と天井の薄暗い一人用の部屋の中にカムリィは転移する。アルカナ・ヘヴン最高機関『エンペル・ギア』内の部屋にやって来た訳だ。最初こそ転移というものは興奮冷めやらぬ現象なのだが、これまでリバーシとして、そして転生協会関係者として数え切れないくらいの転移を経験して来た今、感情は無そのものである。


 カムリィは、壁にピタリとくっ付いているテーブルの前にあるイスに座り、用意されている業務用のノアを展開してから早速担当者に連絡を入れた。


「お疲れ様です。A⑩号室を予約していたカムリィです」


「お疲れ様です。時間ちょうどですね。それでは本日のご用件を伺いたいと思います」


 ノアから発せられたのは若い女性の声だった。リバーシでは無い純粋なエンペル・ギアで働いている社員だ。転生協会と同じくエンペル・ギア内にはいくつもの部署があるのだが、その内の一つにリバーシメンバーの採用や管理、報連相対応を任されている部署が存在している。


 エンペル・ギアでは実際のリバーシの人から見てどうかというの視点も入れたい理由から、リバーシのメンバーを加入試験の試験官補佐に就かせる場合もある。この部署ではそういったリバーシメンバーを対象に指導を行う事もあった。カムリィは経験した事がなく、この部署との普段の関わりは今回のような報連相くらいが主となるが。


 彼女はそんな部署で日々激務に追われている人間の一人だ。


 基本的にリバーシの報連相を受ける側の担当者は自己紹介をしない。と言うのも、各部屋の担当者は決まっているからである。だが報連相をする側となるカムリィの方は、本人確認の意味で名を名乗る必要はある訳だ。


「はい。実は今『とある二人』について調べておりまして、エンペル・ギア内のデータベースを活用すれば詳細な情報を得られると踏んでいます」


「かしこまりました。その人物の名前は」


「ムイ。そしてロアです。これは俺の予想なんですが、記録が残っているはずです。恐らく過去にリバーシの加入試験に参加し、その結果落ちた二人かと」


「なるほど……ムイさんとロアさんですね。失礼ですが、こちらのお二人を調べている理由をお聞かせください」


 さすがに脳死で調べますとはならない。リバーシのメンバーに課せられている使命から著しく逸脱していないかを吟味するのも彼女たちの仕事の一つである。


 これまで何度もリバーシとして本部に報連相を行って来たカムリィは、慣れた様子で相手が納得しそうな理由を口にした。


「転生協会の会長であるコハク・カンツィオーネが、協会の業務とは無関係の可能性が高いとある計画を秘密裏に進めています。それだけでなく、協会内で近日行われる予定の異世界運用は、コハクが前々から企てている計画を進行する上で必要不可欠なものらしく、言ってしまえば異世界運用がコハクの私的目的で開催されようとしています。これは本来の協会が掲げている運用目的とは大きく逸脱したものであり、会長という立場を利用した職権乱用であると俺は判断しています。ここで問題となる、コハクが計画している事とは何か……この部分に関しては現在調査中です。しかし一体何を企てているのか、ある条件を満たせば俺はそれを知る事ができます」


 カムリィは鴻仙の名前は一切出さなかった。ヘタに彼の名前を出して迷惑を掛ける訳にはいかないからだ。しかしコハクの名前は普通に出した。彼女の名前を出さずして説明するのはさすがに難しく、更に彼はコハクの計画がエンペル・ギアの連中にバレてはいけない事を把握していない。それゆえの行動だった。


 実際何らかの計画を進めている可能性が高いから調査をしていて、今回の異世界運用がそれと関わっているくらいの報告であればエンペル・ギアにバレても問題無いとコハクは考えていた。新旗楼の事がバレない限り、言い訳などコハクにとっては朝飯前だ。寝起きでもできるかも知れない。


「その条件と言うのは……?」


 担当女性の質問にカムリィはコハクから与えられた謎を全て説明した。当然その説明をする上では手錠双璧の事や、暴行事件の事も話す必要がある為時間を要したが、ここを面倒と思っては先に進めないのも事実。


 カムリィの説明を聞いた担当女性は恐らくはノアの向こう側で何度か相槌を打ち、状況を理解してくれた。


「なるほど。その謎の答えに正解できれば、コハク会長から教えてもらえるだけでなく、あなたもメンバーの一員になれる可能性が高いという事ですね」


「その通りです。彼女が裏で何を進めているのかを知れるだけでなく、俺がその秘密に参加できたらリバーシの一人としての活動の幅が広がります。以上の事から俺は、今回の調査は行う価値ありと判断しています」

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