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第92話

「さ。くだらない雑談はここまでね。さっさとあたしも仕事終わらせて帰らないと」


「仕事?」


「とぼけないで。あんたからはまだ人工異世界について色々情報聞き出せてないでしょ」


「ああ……それね。非常に言いにくいんだけどさ」


「うん?」


「僕、人工異世界については基礎的な事しか知らないんだよね。協会に侵入して調査した君なら知ってると思うけど、協会には異世界創生班っていう部署があって、より専門的な知識を有している人が居るのはそこになるんだよ。僕はただのラスボス役だし、多分君が欲しているような事は知らないかな」


 気まずそうに目を逸らしながら言う司を見て、その発言に嘘は無いと確信したのかエマはベッドに両手を置いて前のめりになり司に感情剥き出しで迫る。


「はぁああああ!? あ、あんた、それ本気で言ってる!?」


「本気で言ってるよ。あと、病院内では静かにしなきゃダメだよ」


「うるさい、うるさい! あたしばっかり色んな事話して、これじゃあたしがバカみたいじゃない!」


「そんな事言われても。特に確認もせず勝手にペラペラと得意気に情報バラまいてたのは誰だっけ?」


「だ、だから、それは……っ……! う、う~~~ッ! あ、あんたなんか嫌いだ! 近い内に絶対痛い目見せてあげるんだから! あたしを敵にまわした事を後悔するのね!」


「いや、最初から敵でしょ」


「うるさい! 冷静にツッコむな! 死ね!」


 語彙力皆無のエマは涙目のまま姿を消した。司の知らぬどこかの異世界へと転移したのだろう。


「はぁ。クオリネと比べると全然威厳も威圧感も無かったけど……でも、あんなんでも界庭羅船のメンバー候補になるくらいには実力を認められてるって事なんだよな」


 來冥力を纏い、來冥者になった瞬間、彼らは全員別人になる。來冥者を評価する上で普段の姿がいかに参考にならないかがよく分かる、典型的なサンプルだろう。


「とにかく界庭羅船がモデルNの調査の一環として、転生協会の人工異世界に探りを入れている事を共有しないと……」


 司はノアを起動し歓迎パーティーの時に作った司・ユエル・琴葉・マキナ・コハクの五人グループのチャット窓でエマとのやり取りをメッセージで送る。


 新旗楼については一切触れなかったが、エマの両親については触れておいた。


 四人とも司の送ったメッセージをもう読んだのか、早くも該当メッセージの吹き出しに既読を示す小さな『✓マーク』がつき、その後返信してくれた。


『界庭羅船が転生協会にねぇ……了解。ちょっと私の方でも警戒しておくわ』


『近い内にって発言が気になりますよね。取り敢えず司くんが無事で良かったです』


『ああ。近日中に実際何か仕掛けてくる可能性が高い。油断はできないだろうな』


『私が昨日会ったあの子、やっぱり界庭羅船所属だったんだ。それにしてもお父さんとお母さんの復讐の為に界庭羅船に入ろうとしているなんて、何だか悲しいね』


『それでも同情はできませんよね。あ、コハクさん。私に何かできる事があったら何でも言ってください。できる範囲で協力しますから!』


『ありがと。でもあなたは取り敢えず評価対決の方に集中して。どうしても助けが必要と感じたらその時にお願いするから。今は気持ちだけ受け取っておくわ』


 そんな感じで以降もメッセージによる五人の会話は続いていく。


 エマは怒りのあまり勢いで言っただけの可能性はあるが、ただの捨て台詞と片付けるには危険だ。五人の中でその共通認識が生まれた事が、この情報共有で得られた一番の収穫だろう。

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