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第91話

 司は思わず息を呑んだ。界庭羅船の正式加入を目指して奮闘しているはずのエマの両親が、界庭羅船によって殺されたという事実は驚愕するには十分すぎる。


「当時パパとママは警察組織の一員でね。夫婦という事もあって息もピッタリ……まさにエースと呼ぶに相応しい二人組だったみたいよ」


「 (協会にとっての手錠双璧みたいな感じかな) 」


 司の身近に居る優秀な二人組と言えば手錠双璧がまさにそうだろう。


「ある日二人は密輸組織『シャックス』……まぁこの世界とは無縁の集団だから、あんたは聞いた事も無い名前でしょうけど、この組織を追ってたの」


「……ッ! シャックス……今シャックスって言った!?」


 珍しく興奮した様子で司がエマに詰め寄る。その様子に驚いたエマは一瞬ビクッと体を震わせた。こういう所は普通の人間らしい反応でどこか安心感を与える。


「な、何よ急に! ビックリさせないでよ!」


「……あ……いや、ごめん。何でもない。続けて」


 司の様子は誰がどう見てもおかしかった。話そうと思えば動揺した理由について話せるのだが、さすがに今はあまりにもエマにとっては無関係過ぎる。そう思った司は無理やりにでもエマに続きを促した。


「はぁ? 何なのよ本当に……それで、やっとボスを追い詰めた……そんな時だったの」


「界庭羅船が現れたんだね」


「ふん。犯罪者を守る為のチームとはよく言ったものね。突如現れた界庭羅船の一人がパパとママ含め、その場に居た警察関係者全員を葬ったのよ。圧倒的な來冥力でね」


 こうして聞くと改めて界庭羅船がどんな集団なのかを思い知らされる。全世界の犯罪者にとっては救世主として存在している最強にして最凶の組織。


 誰が界庭羅船に守られているか事前に把握する事はほぼ不可能となり、運悪く出くわしてしまったら、それがその人にとっての最期になるかも知れないのだ。


「……。もしかして君は復讐の為に?」


「その通りよ。あたしは何が何でも界庭羅船に入って、誰がパパとママを殺した犯人なのかを突き止めてそいつを殺す。言っとくけどね……復讐なんて何も生まないとか、そんな事をしても両親は悲しむだけとか、あたしのただの自己満足に過ぎないとか、そういう心に何も響かない綺麗事は意味が無いとだけ言っておくわ。そんなの、そういう立場になった事の無い幸せ者だからこそ言えるだけなんだから」


「……」


 正直司にはエマの気持ちが痛い程に分かっていた。現実世界で蓮に蒼を殺され、彼女が異世界転生を果たした後の世界でも目の前で殺されかけ、何かがプツンと切れた感覚を司は経験している。


 まるであの時の自分を見ているような錯覚に陥った司は、何と言葉を掛けたら良いか分からずにいた。


 これが自分の知り合いや友人ならばまだ説得をしていたかも知れないが、今目の前に居る少女は界庭羅船の一人だ。そして彼女の復讐対象もまた界庭羅船なのである。


 憎くて仕方が無い程のチームに、復讐目的で入ろうとしている彼女を止められるだけの力が今の司にあるとは到底思えない。そんな事は誰よりも司自身が一番知っている事であり、更に背景も何も知らない状況下で一体どんな言葉を投げれば良いのか。


 その言葉次第ではエマを刺激してしまい、司や彼の仲間に危害が及ぶ可能性だってあるのだ。思わず慎重になって結果無言状態になるのも頷ける。


「はぁ……バカみたい。何でこんな話、あんたにしたんだろ」


「……」


「とにかくあたしは界庭羅船に近付けるなら、喜んであいつらの犬になるわ。どんな命令だって聞いてやるし、どんな世界にだって行ってやるって決めたの」


「……」


 相当な覚悟が無いと彼女のような行動は取れない。努力や決意を間違った方向に向けているとしか言えなかった。


 しかし界庭羅船を敵として見ているという点は司たちと同じなのだ。もしも万が一彼女を説得する事ができるのならば。もしも万が一彼女が改心してその気持ちを正しい方向に向けてくれるのならば。


 界庭羅船の中では最弱かも知れないが、それでも一応メンバーに來冥者としての実力は認められてはいるのだろう。その事を考えても、心強い味方になってくれる事は明白だ。


 問題なのは、現状のままではそんな事、天地がひっくり返っても有り得ない話である事だろう。

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