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第89話

 まさか自分の認識が間違っているとは夢にも思っていないエマは得意気な顔で自身の情報収集能力について語り始めた。


「秘密はこのモノクルよ」


「それただのコスプ……じゃなくて、オシャレで身に着けてるものじゃなかったんだ」


「当然でしょ。これ便利でね、二つの機能があるのよ! まずは透視機能。……あ、欲しいと思ってもあげないからね! それ使えば女湯覗けるんじゃ……とか、服を透視して裸見れるんじゃ……とか考えても無駄よ無駄! 残念でした!」


「そんな事考えてないし欲しいとも言ってないでしょ」


「何よあんたつまらないわね。まぁとにかく、この機能さえ使えばどれだけ厳重なセキュリティを要する部屋であっても、中で何が起こっているか筒抜けって訳!」


 今のエマは自分のお気に入りのオモチャを大人に語る子どものようだ。


 だが実際に彼女が説明してくれているそのモノクルはオモチャとは程遠い、大変厄介な代物である。


 そのモノクルさえあればどれだけ周囲に気を配っても部屋の中の様子がエマにバレてしまい、警戒や漏洩対策は意味を成さない。


 さすがのコハクもまさか部屋の外から内部を覗いていた異世界人が居たなどとは夢にも思っておらず、自分の部屋の中でユエルと二人きりであれば問題無いだろうと油断してしまったのだ。


「なるほどね。確かにそれを使えば会長の部屋を外から見つめるだけで、透視機能が働きコハクさんとユエル先輩の二人が会話しているだろうって事は分かるのか。でも中の様子が分かるだけじゃ会話内容までは分からないでしょ?」


「あんた察し悪くない? ここまで来たらバカでも分かりそうなんですけど?」


 ニヤニヤしているエマに司が内心イラッとしたのは言うまでもない。


「 (こいつ、本っ当に……いや落ち着け。我慢我慢我慢) 」


 ここでムキになって言い返したら大人気無い気がしてしまい、司は軽く深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「仕方ないわね。このエマ様が全部教えちゃいますか~。このモノクルを通して見た光景はこんな感じで映し出されるんだけど……」


 そう言ってエマは実際にこの病室の扉の方向を見てモノクルを起動する。するとモノクルから光が扇状に放射され、三十センチ程手前で止まった。そして二十七インチサイズの長方形型に、病室の外の様子が映像として映し出される。まるでプロジェクターだ。


「へ~……凄いね……」


 司は素直に異世界の技術に感心する。


「で、今外には人が居ないから分かりづらいけど、モノクルに映し出されている人が話したら自動的に文字起こししてくれてね。映像内に現在進行形で映るの。これが二つ目の便利機能よ! もっとも、ログとして残る訳じゃないから、読むのが遅かったら把握できずに終わるけどね」


「ふーん。君ずいぶんと便利なもの持ってるんだね。つまり君を敵にまわしちゃったらどこで情報を盗まれるか分からないって訳か」


 司の問いにエマはモノクルの機能をオフにしてから再度司の方へと体を向け、ニヤリと笑ってから元気いっぱいに肯定した。


「そういう事よ!」


「なるほどね。これまでの話を整理するよ。界庭羅船の仕事の内容的に異世界を知る事も重要視している君たちは、まだ謎が多いとされている環境レベルゼロのモデルNを調査していて、モデルNを参考にしている協会の人工異世界に目を付けた。キッカケとしては、協会とその事業はこの世界に来れば嫌でも耳にするし、それで人工異世界の存在を知って興味を持ったってところかな。それで会長の部屋も調査対象とした君は、そのモノクルを使って中の様子とやり取りを見て、偶然にも新旗楼について知った。その情報をクオリネに提供し、更に彼女が接触した僕にも興味を持って、人工異世界の情報収集がてらこうして会いに来た。これで合ってる? エマ様」


「ええ、合ってるわ。何よつまんないわね。間違ってたらあんたが泣くまで罵倒して煽り散らかしてやろうと思ったのにぃ!」


「……。そろそろ怒っても良い?」

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