第84話
「まぁとにかく改めて無事で良かったよ。司くんもマキナも」
「私は別に。ちょっと話したくらいだしそんな心配されるような事でも無いよ~」
「あの、話変わっちゃいますけど、評価対決の会議は……」
本来であれば今日は会議二日目だ。その会議の午前に司は出れなかった訳だが、果たして司無しで進んだのかそれとも彼が回復するまで延期になったのか。
自分が関係者に迷惑を掛けてしまった申し訳無さから、司は恐る恐るその質問を口にする。
「会議を遅らせる案も検討はしたんですけど、それをしちゃうと異世界運用開始日もずれちゃう事になって、以降のスケジュールや他の異世界運用とか諸々を全部リスケする必要が発生しちゃうんです。さすがにそれは現実的じゃないので、すみませんが司くん抜きで午前は進めさせてもらいました」
仕方が無い事とは言え主役の一人である司が欠席の状態で進行してしまった事に、ユエルは若干の申し訳無さを覚えているようだ。
「そうだったんですね。本当に迷惑掛けちゃったみたいで……。あの、午後からは僕も出るので」
「だ、ダメです! 今日は一日ゆっくり休んでください!」
「でも……」
「でもじゃありません。えと、その……せ、先輩命令です! 今日は会議の事とか考えず休養に努めてください! それが今の司くんに与えられた仕事です!」
珍しく意見を変えるつもりは一切無いという気持ちが伝わってきた司は、どうしようかと戸惑ってしまった。本音を言えば今すぐにでも出席して挽回したいが、確かに目覚めたばかりなのに無理して倒れたらそれこそ迷惑を掛けてしまう。
未だに悩んでいる司の様子を見たマキナが助け船のつもりでユエル側に付く。
「司くん! ユエルちゃんもこう言ってるんだし、甘えても良いんじゃない? ほら、最近司くん、色々と精神的にも疲れてたでしょ? これを機に休みなよ」
「ああ。幸いな事に今回はダブルラスボスによる異世界運用だからな。最悪ユエルか司くんのどちらかが居れば会議自体は機能するだろうし。カムリィさんには私たちが説明しておくよ。対戦相手は手錠双璧なんだ。万全な状態で挑むと良いさ」
「……。分かりました。ありがとうございます」
三人にここまで言われてしまっては黙って引き下がるしかない。司は諦め、今は大人しく休んでおこうと決心した。
確かに最近司を取り巻く環境は大きく変わった。
リバーシ候補生として、そして一人の兄としての目的を達するべく協会へ入会し、友の死と妹の異世界運用を経験し、最終的にはリバーシの正式メンバーへの道が閉ざされた。
その後協会へ正規の手順で入会する為にオーディションに挑み、一度落ち、二度目で合格した。
ようやく新しい生活が始まると思ったのも束の間、クオリネにあっさりと敗北し今回の異世界運用に携わる人に迷惑を掛けてしまった。
司自身は気付いていないかも知れないが、彼の精神面における疲弊は相当蓄積されているだろう。仮に今は大丈夫だとしても、どこかで限界が来る可能性はある。
ここはマキナの言う通りゆっくり休める貴重な機会かも知れない。
「ああ、特に問題無かったら明日の会議から参加すると良い。さて。それじゃあ私たちはそろそろ戻るとするよ。お大事に」
「それじゃあね~! あ! リンゴちゃんと食べてね! せっかく剥いたんだから~」
「うん。ありがと」
琴葉とマキナが入口に向かって歩き始め、それを見たユエルも立ち上がる。
「私もこれで。それでは、お大事にしてくださいね」
そう言ってユエルも帰ろうとした。その瞬間、司はユエルに聞きたい事があった事を思い出し、思わず呼び止めてしまった。




