第83話
琴葉のカミングアウトは司とユエルを驚かせるには十分なものだった。
「ほ、本当ですか? そ、その、大丈夫でした?」
二人が怪我をしたり危害を加えられたようには見えなかったが、相手が相手なだけにユエルは心配そうな声を上げる。
「ああ。心配はいらないよ。ちょっと話して終わりだったからな。今回の司くんのように異世界に連れて行かれてどうのこうのっていうのも無かったし」
「それなら良いんですけど……」
「琴葉さん。クオリネと何を話したのか聞いても良いですか?」
司には彼が元リバーシ候補生だからという明確な近付く理由がある。だが琴葉とマキナには界庭羅船が興味を抱く何かがあるとは思えない。偶然的な出会いをしたとは言え一体どんな会話をしたのか気にはなるだろう。
琴葉は最初から話すつもりでいたのか特に考える素振りを見せる事なく話し始めた。
「残念ながら君が期待しているような話は何もしていないぞ。クオリネとは路地裏で会ったんだが、どうやらその路地裏には彼女の仲間が居て、ちょうど異世界転移していたらしくてな。その説明をされたくらいだ。さっきの君の話も交えて考えると、やはり彼女たちは自由に異世界間を転移できるみたいだな」
「はい。仲間……という事は、つい最近までこの辺にはクオリネ以外にも界庭羅船のメンバーが居たって事ですね」
「 (私の気遣いは一体……。見た感じ司くんもユエルちゃんも特にそれに対して過剰な不安はしてないみたいだし……) 」
「ああ。そういう事になる。……ところでマキナ」
「……! な、何?」
「界庭羅船の話が出てから様子がおかしいが、君もしかして何か隠していないかい? 例えばそうだな……今話した他の界庭羅船の奴に会ったとか、あの後再びクオリネに会ったとか」
琴葉はこの質問に持っていく為に話題を変えたのだ。
核心を突かれたマキナは面白いくらいに分かりやすく反応した。
「え! え、え~と……その、あ、あはははは」
「笑って誤魔化すな。その反応を見るに図星だったか。界庭羅船絡みかつ、私たちのような部外者の身に起こり得る事を考えたら、真っ先にメンバーの誰かに会ったのではという予想が立った。大方、変に私たちを不安にさせたくなくて黙ってたんだろう。それで、君が会ったのは一体どっちだ?」
これはもう隠せる雰囲気では無いと悟ったマキナは三人の視線を浴びる中、観念したかのように口を開いた。
「うう……前者の方です」
「前者……つまりクオリネ以外のメンバーに会ったって事か」
琴葉の確認にマキナは小さく頷き、肯定の意を示す。正確には界庭羅船の可能性がある一人という認識ではあるが。
「昨日の事なんだけどさ……」
マキナは司たちに伝える。
小さなシルクハットにモノクル、ゴスロリの出で立ちをした十歳程の少女と協会内で出会った事。彼女が謎の方法を用いて異世界への転移を行った事。
不要な情報だと判断したのか手錠双璧の事は伝えず、界庭羅船のメンバーかも知れないその少女の事だけを話した。
「聞いた限り、その子が界庭羅船の一人であると断言はできないが異世界人である事は間違い無さそうだな。少なくともアルカナ・ヘヴンの人間では無いだろう」
マキナの話を聞いた後、琴葉が素直な感想を漏らす。名前も正体も不明な謎の異世界人も近辺に潜んでいる事実は、恐怖と言うよりも気味の悪さが打ち勝つ。




