第82話
「「「……」」」
取り敢えず新旗楼以外に関する情報を三人に伝えた後、病室内は静寂に包まれた。
何か感想を言うべきか、司に何か言葉を掛けてあげるべきか、そんな思考が三人の脳内を駆け巡るが、得た情報が衝撃的過ぎて何を話したら良いのか分からない。
「……。あ、あの……」
やがてそんな沈黙に耐え切れなくなったのか司の方から話し掛ける。
「僕は確かにクオリネに手も足も出ずに負けちゃいましたけど、だからと言ってリバーシ全員がそうなるかと言われたら違うと思うんですよね。だって僕はただの候補生だった訳ですし、僕より強い人なんて数え切れないくらいリバーシには在籍していると思うんですよ。だから僕の敗北=リバーシ全体の敗北と結び付けるのは早計であるとだけ先に言っておきます。それに万が一他のリバーシメンバーも個人の力では負けていたとしても集団で挑めば勝てる可能性は大いにありますし、だから……」
とにかく今は彼女たちから不安な気持ちを取り除きたくて、司は早口で捲し立てる。誰がどう見ても今の司は必死に安心させようとしている人のそれであった。
実のところ司は戦う前から絶対にクオリネには勝てない事は分かっていた。昔とある人たちから、界庭羅船の來冥者としての実力を聞かされていた彼は、一般人よりも彼らの戦力について正しい認識をしている。
だが知識と経験は別物だ。実際彼らはどれ程の存在なのか。その部分を知る目的もあって司はクオリネと戦ってみたのだ。その結果分かった事は結局リバーシが何人束になってかかろうとも、界庭羅船には勝てないという残酷な現実であったが。
彼女たちに向かってそんな事実を口にするのはあまりにも抵抗がある。故に司はこんな風に少しでも希望を持たせようとしているのである。変に希望を抱かせるのは悪い事だと頭では理解していても、咄嗟の判断で嘘を吐いてしまったのだ。
「司くん! あの、もう大丈夫ですから。ありがとうございます。私たちを不安にさせたくなくて言っているんですよね」
「……。本当に、自分が情けないですよ。まさかあんなにも簡単に敗北するなんて」
司は覇気の無い声を出し、目線を落とす。同情してもらおうと言っている訳ではなく心の底から不甲斐ないと思っているようだ。
「しかしまさか界庭羅船の戦力がそこまでとはな。どうやら私たちの想像を遥かに超える実力の持ち主のようだ」
「……」
「マキナ? どうかしたか? そんな思い詰めた顔して。まぁ界庭羅船が異次元の來冥者だったのは確かに衝撃的だったが、いつまでもそんな顔してても仕方ないだろう」
琴葉に話し掛けられマキナはビクッと体を震わし、あからさまな作り笑いで応答する。
「え! あ、うん! そだね! 司くんの話を聞いた限り、クオリネがやってる事は初見殺しだよ! 死にゲーだって何回も死んで知識を蓄えて対策を練ってクリアするんだからたかだか一敗しただけでそんな悲観的になる必要無いよね!」
「できれば僕は何回も負けたくは無いけどね。でも現実的に考えて、やっぱり勝つにはそこも重要な事に気付かされたよ」
「うんうん! そだね!」
「……?」
マキナの態度に違和感を覚えた琴葉は怪訝そうな表情でマキナを見つめる。この中では一番付き合いが長い為か、その些細な変化に気付いたようだ。
「 (昨日、界庭羅船の一人かも知れないロリっ子に会った事は内緒にしておこ。この近辺に怪物が二人も居るなんて余計な不安を煽るだけだもんね……) 」
界庭羅船の話題になった事で自然とマキナは昨日の出来事が頭を過ったが、その情報は心の中に閉まっておく事にした。その葛藤している様子を琴葉に怪しまれた訳だが、マキナは当然その事に気付いていない。
「……。ああ、そうだ。不必要かも知れないが一応伝えておく。私とマキナは、司くんの協会加入お祝いパーティーの帰り道にクオリネに既に会っている。偶然だったがな」
特に何か情報のやり取りがあった訳では無い為、黙っておいても良かったのだが琴葉はとある意図があってその事実を口にした。




