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第77話

 空久良蓮との戦いで司が見せた來冥者としての力。陰陽師を彷彿とさせるその姿になった司は完全に戦闘態勢に入る。


「へぇ。それが司くんの來冥者としての姿なんだ。凛々しくなって格好良いね」


「それはどうも」


「さっき私の事を美人な女の子って褒めてくれたお礼だよ。こっちも何か言っておいた方が良いかなと思って」


「そんな義務感で格好良いって言われてもね」


「でも思ったのは本心だから素直に喜んで良いんだよ」


「これから君に殺されそうなのに、そんな感情湧かないよ」


「あーそれもそうか」


 これからハンターと餌になりそうな二人とは思えない会話を彼らは繰り広げた。司は少しでも心にゆとりがある事をアピールする為に行っているが、クオリネの方は本当に余裕があるが故に司にただ付き合ってあげているだけであった。


 本来であれば他の追随を許さない來冥力を持っているリバーシにとって、必要以上に恐れを抱く來冥者などまず存在しない。少なくともアルカナ・ヘヴン内では。


 その事を踏まえると司は少々緊張しすぎなように思えるかも知れないが、事態はそう単純なものでは無かった。


 相手はあの界庭羅船のメンバーの一人なのだ。全世界最強の異世界人として知られ、その情報だけでも過度な不安と警戒心を抱いてしまうのは至って普通の現象のように思える。


「それにしても君たちの仕事は犯罪者を護衛する事でしょ? 僕の殺しは仕事に入っているの?」


「入ってる訳ないでしょ。勘違いしないで欲しいんだけど、私たちはあくまでもジャンル的にはボディーガード。殺し屋でも暗殺者でも無いの。仮に依頼されたとしてもそんなのお断りだよ」


 半殺しや殺人も平気で行う彼女たちに対して殺し屋のイメージを抱き、殺人が専門と結び付ける人は大勢居る。だがそれはクオリネの言う通り一応誤解ではあるのだ。


 彼女たちは犯罪者たちを正義の魔の手から守る為だったり、自分たちに危害が及びそうになった時の自己防衛として戦闘を行っているだけである。つまり界庭羅船は初めから殺人を目的にしている訳では無い。


 依頼人や自分自身が危害を加えられそうになったから守る為に反撃しただけであり、緊急避難と何ら変わりないと言うのが彼女たちの言い分となる。


 クオリネは相変わらずの無感情な目を司に向けながら彼の疑問の回答を述べた。


「あなたを殺すって言う発言なんて、初めからただの脅しに決まってるじゃない」


「……」


「……」


「え?」


「え?」


 何とも言えない微妙な空気が流れ始め、先程までの殺伐とした空気は一瞬にして消え失せた。


「お、脅し?」


 気張ってしまった自分がどこか恥ずかしくなるような感覚を覚えた司は、急速に力が抜けていく。その発言自体が嘘の可能性もある訳だが、今の司にそこまで気を回している余裕など無かった。


「うん、ただの脅し。界庭羅船である私があんな風に言ったらさすがに喋ってくれるかなと思って。ここにわざわざ連れて来たのも、來冥力が使用可能な環境である事を利用して発言に信憑性を持たせる為」


「僕が君の質問には答えられないって言った後のセリフとかは……」


「全部ただの茶番。一応転生協会の事とか勉強したんだけどね。あなたたちって普段から死んじゃった人を人工異世界に転生させて、そこで物語を体験させるっていう素敵な事をしているんでしょ? それに則って私もそれっぽい演技しただけ。どう? 騙された? 上手過ぎてスカウトしたくなった?」


 最早何を信じて何を疑えば良いのか、この時の司は分からなくなっていた。

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