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第73話

 今回の評価対決にまさかコハクの私的目的が絡んでいるとは露知らない司は、ユエルと別れた後に一人帰り道を歩いていた。


 こうして会話の相手が居ない中一人で歩いていると色々な事を考えてしまう。


 もしも蒼の件が何事も無く解決してリバーシ候補生をクビになっていなかったら、自分は今頃まだ正体を隠したまま転生協会でスパイ活動を続けていたのだろうかと。


 結果だけ見れば彼はリバーシとして必要な感情の制御力や冷静さを欠いていると判断され、クビになった訳だが、もしあの状況下でも冷静さを保って蓮を倒す事ができていたら少なくともリバーシ追放なんて事にはなっていなかっただろう。 


 いずれにせよ今の司はリバーシとしての自分を一切考える必要がなく、友達や優しい先輩にも恵まれた生活を送っている。そんな時間を送れている事に彼は十分満足しており、本来ならもうリバーシに未練は無いはずなのだが時折そんな『もしもあの時こうだったら』と考えてしまう。


 司は気付いていないが未だにリバーシとしての自分の姿について思いを馳せている原因は、彼自身の來冥力にあった。


 転生協会で活動する以上、司がリバーシ構成員になる為に特殊な方法で手に入れた來冥力を使う機会など、まず訪れる事は無い。言わば持て余した力となるのだ。


 あれだけ辛い思いをして手にした來冥力を発揮できる場は、何か特殊な事態が発生しない限り訪れる事は無い。その現実が司の中にモヤモヤ感を生み出しているのだ。


 もっともリバーシになったところで、その來冥力を使用できる機会が毎回あるかと言えば答えはノーである。だがリバーシの本質は諜報員であり、時には危険な場で活動したり武力行使を避けられない場面に遭遇する可能性は高い。


 そんな時にエンペル・ギア、そして自分自身に良い結果を一〇〇%もたらす為に、必要最低限の來冥力を持つ事がリバーシ加入必須条件の一つとなっている。


 何かあった時のエンペル・ギアの切り札。この世界の民にとって、リバーシはそんな認識でもあるのだ。


「……」


 いつもであれば無意識にそんな考えが浮かんだとしても、その時間は短時間なもので終了するのだが今日は違った。比較的長い時間、起こり得た未来や自身の來冥力について思考を働かせる事になってしまう。


 その理由は明らかだ。全ては手錠双璧に出会ってしまったからだ。


 ムイから向けられたリバーシに対する敵意に加え、彼から浴びせられた落ちこぼれという言葉は、司に元リバーシ候補生としての自分を考えさせる機会を強制的に作らせた。


 転生協会を落ちこぼれの行きつく先とは決して思っていない。だが自分がリバーシの中で落ちこぼれであるという自覚はあった。こんな自分がリバーシ候補生をクビになった直後に協会へ正式加入すれば、確かに第三者からは落第生が妥協でやって来たように映ってしまうのも頷ける。


 使う機会が無い圧倒的な來冥力など宝の持ち腐れ以外の何物でもなく、転生協会では何の自慢にも強みにもならない。


 それどころかムイのようにリバーシを忌み嫌う者を不用意に刺激してしまう危険性を孕んでいるこの状況は、司を不安な気持ちへとさせた。


 果たして自分は協会に居ても良い人間なのだろうかと。


 そんな事を口にしたらユエルや蒼に怒られそうではあるが、司は今日の出来事を経験したせいで割と真剣に悩む事になってしまった。


 考え事や悩み事で頭が支配されている時、人は無防備になるものだ。周囲への注意力が消え失せ、思わず自分の世界へと突入してしまう。それは司であっても防ぎようの無い事であり、その状態が彼に隙を生み出してしまった。


 それはまさしく突然の出来事である。


「……。……? ……っ!」


 気付いた時には遅かった。司は路地裏から急に伸びて来た手によって顔を覆うように口を塞がれ、そのまま路地裏へと引きずり込まれてしまった。

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