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第71話

「……」


 カムリィの提案にコハクは思わず黙る。


 彼をリバーシだと決めつけて新旗楼に誘っても、断られてしまえばそのままエンペル・ギアに報告されコハクにとってはバッドエンドを迎える事になり、その結末を回避する為にこれまでは慎重に機会を窺っていた。


 だが彼は自分の実力を証明さえできれば計画に加えてくれないかと言ってきたところを見るに、幸運にもノリノリなようだ。


 結論を言えばコハクの出した宿題は()()()()()()()()()()()()()()内容という意地悪なものになっていた。何故ならば解く為にはリバーシの関係者でしか知り得ない情報が必須となるからだ。


 更にその必要情報は外部には決して漏らしてはいけない極秘内容の一つとなっており、もしも謎を解く側がリバーシ関係者で無い場合、そもそもリバーシの知識が必要だという事にすら気付けないはずだ。つまり元リバーシだとバレている司から聞いたという言い訳も通用しない。


 普通であればいかに調査力と推理力が優れた人でも情報不足から答えに辿り着くのは不可能と言っても良い。


 この事からもしもカムリィが正解する事ができたら、必然的に彼がリバーシの人間という何よりの証拠になるのだ。


 これが何を意味するか。コハクからすればそんなの考えるまでも無い簡単な問いだ。


「 (もしもカムリィが本当にリバーシの人間だったとして正解に辿り着けたら、それは現役リバーシの中でも優秀な人を仲間に誘える絶好のチャンスになる。それだけじゃない。今までは彼がリバーシだったとしても断られた時のリスクを考えるとなかなか切り出せずにいたけれど、結構乗り気みたいだし、これはいけるかも……! まさかここまで話が上手く進むとは思ってなかったわね……うん、彼の來冥力以外の実力も知れるし、この機会を逃す訳にはいかない!) 」


 コハクはカムリィに悟られないように表面上は冷静さを保ちつつも、内心は非常に興奮していた。


 本来ならばここで全てを話して誘っても良いのだが、コハクは自分に待ったをかける。こんなチャンスはそうそう訪れるものではない。自分の右腕にしたいレベルの人間の実力は改めてテストしても損は無く、やはりここは当初の予定通り彼の調査力を見極めるべきだろうと思ったのだ。


 最も残念なパターンがカムリィの実力不足で彼が真相を見抜けなかった時だ。コハク視点ではカムリィの実力不足が原因か、それともリバーシのメンバーでは無かったのが原因かの判断が付かず、結果見送らざるを得なくなる。


 一応他に考えられる可能性としてカムリィは真相に辿り着きはしたが、この謎はリバーシの人でない限り解くのは不可能であると気付き、自身の正体を隠す為にわざと解けなかったと嘘を吐くパターンだ。


 だがカムリィがこの選択を取る可能性は極めて低いものとコハクは考えている。


 この謎はリバーシにしか解けない。そうであるならばこの真実を知り謎を提供してきたコハクもまたリバーシの関係者である事の証明になるからだ。


 リバーシの者がリバーシにしか解けない謎を出してくるという事は、彼女が求めている仲間像は自身と同レベルかそれ以上の実力者であるという事になる。


 それ相応の異常事態を察し、カムリィならば事情を知ろうとしてくる可能性が高いのだ。普段の彼を知るコハクにはそれが容易に想像できる。


「会長? 考え込むのも良いですけど、そろそろ返答してくれませんかね」


「あ……ごめんね。まさかあなたの方からそういう提案をしてくるとは思ってなくて」


「俺は正直会長が何を企んでいるのか結構気になってるんですよ。でも絶対あなたはそれを簡単には教えてくれない。だから、手錠双璧と今回の異世界運用開催に秘密が眠っているのであれば、それを実力証明に利用できないかって考えただけです」


 カムリィのこの言葉に裏も嘘も無かった。紛れも無い本心だ。リバーシの一員としてコハクの周辺を調査する事は少なくないが、一体彼女が自分たちに内緒で何をしているのか気になって仕方が無かった。


 その秘密を知れる絶好の機会が巡って来たのだ。これを逃す手は無い。


「あなたのそのチャンスを絶対に逃さない嗅覚、私は好きよ。良いわ、今回の異世界運用に関する秘密を解けるかどうかを試験内容にしてあげる」


「……!」


「私は優しいからね。調査と推理がしやすいように、試験内容となる部分……つまり解くべき謎を改めて伝えるわね」


「はい、お願いします」


 コハクはこれまでの会話からカムリィが今疑問に思っている事、そして調査と推理を頑張れば解けるだろうと思っている事を脳内で整理し、彼に『問題』を伝えた。

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