第67話
「……」
マキナが一人で盛り上がっている中、彼女をジッと見つめる人が居た。いや正確には手錠双璧を見つめていた訳だが、彼らが居なくなった今自動的に視線が求めるのは取り残されたマキナになってしまったのである。
「へぇ~」
その者はどこからどう見ても子どもと呼ぶに相応しい頭身をした少女だった。ユエルよりも幼い顔立ちと小さな身長、年齢はおよそ十歳~十二歳くらいだろうか。
小さなシルクハットを被りモノクルを付け、ゴスロリ衣装に身を包んだ可愛らしい女の子であった。首から上を見ればまるで怪盗のような印象を与えるが、首から下はメルヘンチックな身なりの為、一度見たら忘れなさそうな強烈な容姿なのは間違いない。
転生協会では司のようにタキシード姿、ユエルや琴葉のように私服、マキナのように学生服など、基本的に自由な服装での活動が許されており、彼女のこのコスプレに近い格好も一応服装規定に違反している訳では無かった。
協会内に居るという事は彼女も協会に所属している人の一人なのだろうか。
「噂の手錠双璧……やっぱりなかなか面白そうな二人組ね。ま、どれだけ強い二人組だろうとあたしの足元にも及ばないと思うけどね」
ぶつぶつと言いながら彼女はワイヤレスイヤホンのようなものを耳に付け、トンと人差し指でタッチしてから周囲の人に聞こえないように小さな声で会話を始めた。どうやら通信機器のようだ。
アルカナ・ヘヴンには無い連絡手段である事から、彼女が異世界人である事が確定した瞬間だった。
「あ~もう、やっと出た~。ダメじゃない、連絡は三コール以内に出ないと。それが『びじねすまなー』ってもんでしょ? あ……切らないで切らないで! 本題に入るからさ」
少女はマキナに背を向け、慌てた様子で通話先の相手と会話を続けた。
「協会内には無事潜入できたわ。……はぁ? 迷子になんかなってないわよ! あたしを子ども扱いしないでよね! ……ええ、何とか色んな情報を入手できたわ。あ、そうそう。ついでに最強の二人組と噂の手錠双璧とかいう二人も目にする事ができたわ。……え? まだ話し掛けては無いけど……だって男の人はヤンキーっぽいし女の人は無感情のロボットみたいな感じだしで、あんな二人組に進んで話し掛けるなんてバカでしょ、どう考えても……!」
「ん~~~? それは私の事かな~~~?」
「うひゃう!」
唐突に聞こえた声に少女は情けない驚きの声を上げ、反射的に後ろを振り返る。
いつの間にかそこにはマキナが立っており、満面の笑みを浮かべていた。
マキナはこれでも探偵署のエースだ。クオリネと初めて会った時もそうだが周囲の些細な変化や異変には敏感なようであり、いくら少女が身を隠していたとしてもマキナの目は隠し通せなかったようだ。
もっとも、転生協会内と言えどこんなにも奇抜で目立つ格好をしている少女側にも見つかってしまう要因は大いにある訳だが。
「いつから私たちの事見てたのかは知らないけど、盗み聞きとは感心しないな~。初めて見る子だけど、あなたお名前は?」
「……。ごめん、何か面倒くさそうな女の人に絡まれた……また後で連絡するわね」
少女はマキナの質問を無視し、再度彼女に背を向けて通話先の相手に簡潔に状況を伝える。そして耳から機器を外し、マキナの方へと向き直った。
「人に名前を聞く時はまずは自分から名乗ったらどうかしら? お姉さん」
「ず、随分と生意気な子だね。でも正論だから言い返せない……! 私は探偵署所属のマキナだよ。ほら、次はあなたの番だよ」
「ふ~ん。マキナね。ま、覚える価値が無さそうだけれど、何かの間違いであたしの興味を引けたら覚えてあげなくも無い……んぎゃ!」
「さっきから生意気なのはこの口かな~? ん~?」
さすがのマキナもイラっときたのか、お仕置き感覚で少女の両頬を引っ張る。少女は悲痛の声を上げるがそんなのお構い無しである。




