第66話
「えっと……じゃあさ、もう一個! ムイくんとロアちゃんは二人が一緒の時に強い來冥力を扱えるって事だけど、その条件に気付いた過程と言うか、軌跡を知りたいかな~なんて……」
來冥者になれるかどうか、そしてどんな能力を所持できるかどうかは完全に運だ。少なくともそれがこの世界における一般常識だ。
自分とは異なる他人が自分と全く同じ発動条件の來冥力を授かり、かつ誰が相方なのかを何の情報も無い中、この広い世界から見つけ出せた事になる。先程の常識に則って考えると、あまりにもそれは現実味を帯びない確率だ。
一体この二人はどのようにして今に至るのか。その経緯を知りたいと思うのは普通の事である。
「まぁようするに二人の過去と言うか昔話を聞きた……」
「それは答えられない」
マキナはきっと答えてくれるだろうと軽い気持ちで質問した訳だが、彼女の返答は予想外にも冷たいものであった。
「……!」
ロアの雰囲気が急変したのだ。一切の質問も食い下がりも許さないと瞳が語っており、マキナは思わず背筋に冷たいものが走った。
無表情で無感情で無口な女の子だと思っていた彼女が、唐突に見せた拒絶の反応は想像以上に心にくるものがあった。
「……。悪いな。それについては俺も同意見だ。あんたの質問は言い換えれば俺たちの來冥力に関する秘密を知りたいって事だろ? どうやってお互いの存在に気付いたか。同じ発動条件の來冥力を二人の人間が扱えるのは果たして偶然なのか……」
「う、うん! だって私、そんな人に今まで会った事無いし」
「ああ、気になるよな。でも教えられないんだ。教えたら最後……あの鬼ババアが統率している機関に呼び出し食らって、寿命が縮む事間違い無しの尋問を受ける事になるだろうな」
「え」
「なんてな。話はこの辺にしておくか。あ、そうだ。もし良かったらロアの友達になってくれないか? こいつ、こんなんだから友達マジで居なくてな」
「あ、う、うん。それは良いけど……」
ツッコミどころや質問したい事が多すぎて正直それどころでは無かった。マキナは半ば脳死でムイのお願いに二つ返事で返した。
「だとよ。良かったな、ロア。協会に来て初めての友達じゃないか?」
「うるさい。余計なお世話」
ロアはそう言うと一人で歩き始めた。
「あ、おい! ったく……悪いな。あんな反応だけど内心喜んでるから。それじゃあ」
そう言ってムイはロアの後を追いかけた。ポツンと取り残されたマキナは少しの間放心状態になり、その場から動く事ができなかった。
「ど、どこからツッコんだら良いんだろう、これ……」
ようやく正気に戻ったマキナだったが、釈然としない気持ちは彼女の中に大きな塊として残る事になった。
手錠双璧の來冥力に関する秘密。態度が急変したロア。二人について色々と知りたい気持ちが働いて話し掛けたと言うのに、逆に疑問が増えてしまった。
だがそれと同時に探偵署のエースとしての血が滾ったのもまた事実。
マキナは口角を上げると楽しそうに自分自身に対して宣言した。
「面白そうじゃん。絶対にあの二人の秘密、調べ上げてやる……!」




