第65話
「私はずっと探偵署だよ~! 調査とかするの好きだし、それに演技とかあんまり得意じゃないしね~」
「だろうな。さっきも言ったけどあんた、素直そうな人だしな」
やはり先程の言葉は誉め言葉として受け取る考えで合っていたようだ。どうやら敵対心を抱かない人相手には、ムイは普通に接する男性らしい。
ここまで話してそう言えばとマキナは思う。ムイが今言ったように手錠双璧は最初からラスボス役ではなかったみたいだ。
元々彼らがラスボス役では無かった事をマキナは知っている。いやマキナどころか協会に居る人間ならば大半の人が知っているに違いない。
今最も注目されている二人組なのだ。彼らに関する情報は既に人から人へ高速伝播していき、気付いたら協会内の常識レベルにまで広まっていた。
「ムイくんとロアちゃんはダブルラスボスの運用が決定してから、試験を受け直してラスボス役で改めて入会したんだよね?」
「ああ。俺らが一番輝ける場所がようやく用意されたんだ。その舞台に立たないのは大損してるも同然だからな。……正直ムカつくが、その点だけは司に感謝しないとな」
「え? ごめん、最後何て?」
ムイは最後の発言だけ、呟くレベルの小さな小さな声で言ったせいかマキナは聞き取る事ができなかった。
「いや、何でもない」
「……? そっか」
ムイと司の間に一悶着あった事を当然マキナは知らない。まさかムイが司に対して、そしてリバーシに対して敵対心を抱いているとは夢にも思っていないだろう。
「それにしても聞いたよ~。二人って演技力と連携力はもちろん、來冥力も相当なものなんだって? そりゃ一発合格するよね」
「……元々俺らはその力を持ってたんだ。けど、俺らが実力を発揮できる条件は二人で一緒に戦う事だからな。どっちかが欠けてもダメなんだ」
「本当に二人で一人なんだね。良いなぁ……相棒って感じがして」
ムイの顔を見れば分かる。その表情から察するにこれまでムイとロアは実力を存分に発揮できる場所がなくて悔しい思いをしていたのだろう。
だが今は違う。ダブルラスボスによる異世界運用と言う、二人の為に用意されたかのような舞台があるのだ。恐らく今がムイとロアにとって人生で最も輝いている瞬間なのかも知れない。
「そうだ。これを機に聞きたい事があるんだけど」
「何だ? こいつのスリーサイズ以外なら答えてやっても良いぞ」
ロアの方に顔を向け、意地の悪い笑みを浮かべながらムイは言う。いきなりセクハラを受けた事でロアは目を吊り上げて彼を睨む。
「ムイ」
「冗談だって。そんな怖い顔するなよな」
「う~ん……ロアちゃんスタイル良いし正直それも気になる……! けど今聞きたいのはそこじゃなくてね。私の知識不足が原因だとは思うんだけど、二人一緒に居る事が來冥力を十分に発揮可能な条件って、かなり珍しいよね。そんな事本当にあるのかなって」
「……」
これまで普通にマキナと会話を続けてくれたムイが急に黙る。何か聞いてはいけない事だったのだろうかと内心焦ってしまったマキナだったが、その焦りはロアが割り込んで来た事で一瞬で消し飛んだ。
「マキナちゃん」
「……! な、何?」
マキナとの会話を全てムイに丸投げしていたロアがいきなり会話に参加したのだ。あまりにも無口なせいで脳が無意識に彼女は一切の発言をしない人だと認識していたようで、このように急に話し掛けられると驚きが勝ってしまう。
「本当だよ。デメリットありの強い力なんて、よくある話」
「そ、そっか……」
平静さを装っているがどこか慌てて答えているようにも見える。もしかしたらマキナの今の質問に対して沈黙状態が続く事は居心地が悪いとロアは感じたのかも知れない。




