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第64話

 今にして思えばコハクが口を酸っぱくして主人公二人の情報を漏らすなと言ってきたのは、その事件の被害者がロアである事を広めたくない理由もあったのだろう。


 もしも広まってしまえばいずれ手錠双璧の耳にも入り、ムイがコハクを詰問するのは明白だ。最悪評価対決は中止となってしまい、コハクの目的が達成されなくなってしまう。


 そんなリスクだけ存在しているような事を何故敢えてするのか、カムリィには全く理解ができなかった。


「コハク会長……あなた何を考えているんですか? 評価対決の日を迎えたら司とユエルが相手をする主人公の事を手錠双璧が知ってしまう可能性だってある。そんなのロアの心の傷を抉るだけだ。それだけじゃない。協会は未遂だろうと罪を犯した人間を異世界運用の主人公にはしないルールがありますよね。彼らがやった事は強姦未遂です。誰がどう見ても立派な犯罪じゃないですか」


 ロアの気持ち、そして協会のあるべき姿を考えたカムリィは、思わず責め立てる口調になってしまう。だがコハクはカムリィのその反応を待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。


「 (乗ってきたわね、カムリィ。この事件は私と手錠双璧しか知らないはずだから、そもそも私が今回敢えて彼らの間にあった出来事を伝える必要は無かった……でも、これを伝えれば間違いなくカムリィは知ろうとしてくる……オーケー、ここまでは良い流れ……!) 」


 カムリィという男をより焚き付ける為に、コハクは一つの質問を口にした。順調に会話が進んでいる事もあって、意味深な笑みは浮かべたままだ。


「ねぇカムリィ。……本当にロアは『ただの被害者』なのかしらね?」




 同時刻。


 マキナは探偵署を出て、転生協会から自宅へ帰ろうとしていた。


「 (今日の夜ご飯何作ろっかな~。うーん……あ、そう言えば冷蔵庫の中でナスが死にかけてた気がするから麻婆茄子でも作ろっかな。挽き肉買ってかーえろ!) 」


 心の中でもテンションが高いマキナは仕事からの解放感もあって、ご機嫌な様子だ。


 そんな時、マキナは前方を歩いている二人の男女の姿を視界に入れた。実際に話した事は無いが彼らが何者なのかは把握している。それ程までに有名な二人組だったのだ。


 手錠双璧『ムイ&ロア』がそこには居た。


「 (あれってもしかして噂の手錠双璧……ムイくんとロアちゃんかな) 」


 話した事すら無い、知り合い以下の人間ではあるが彼ら二人に対する呼び方は随分と親しげだ。そこはやはりマキナらしいと言えるだろう。


「 (せっかくだし話し掛けてみよっかな。どんな感じの二人なんだろ) 」


 人見知りとは対極の場所に仁王立ちしているとしか思えないマキナは、何の躊躇も恐れもなく彼らに近付き、声を掛けた。


「あの!」


「ん?」


 二人は足を止め、ムイは声を上げながら、ロアは無言状態のまま振り返った。


「もしかして手錠双璧のムイくんとロアちゃんかな?」


「そうだけど……誰だ、あんた?」


「初めまして! 私、探偵署所属のマキナって言います! ダブルラスボス役として有名な二人の姿が見えたからちょっと話し掛けてみよっかな~って」


「お、おう。そうか……。随分とエグい心臓を持ってるんだな」


 ロアには一生かけてもできなさそうな事だとムイは思い、思わず苦笑してしまう。


「……」


 そしてそのロアはと言えば面倒そうな人に絡まれたと言いたげな、露骨に嫌な顔をマキナに向けていた。彼女の視線と表情にマキナは気付いたがこれくらいで話し掛けた事を後悔するような性格ではない。


「こうして近くで見ると随分と雰囲気あるよね~。最強の二人組って感じ!」


「お、そうか? 嬉しい事言ってくれるじゃん」


「ムイ。こんなの、ただのお世辞」


「まぁまぁ仮にそうだとしても良いじゃないか。それにこいつ、まずはお世辞や社交辞令から会話を進めるようなタイプに見えないし、本心だと思うぞ。何かこう……自分の感情に正直に従って生きてるっぽいしな」


「 (単細胞ってバカにされてる感が否めないけど、気にしないでおこ) 」


 何事もネガティブに考えてはいけない。今のムイの発言は素直そうな良い奴という意味なのだとマキナは受け取る事にした。


「ちなみにマキナだったか。探偵署所属って話だったけどあんたも俺らみたいに途中から担当部門を変えた口か? それとも協会に入った時からずっと探偵署に?」


 個人ではなく手錠双璧として褒められた事が嬉しかったのか、意外にもムイの方から質問をしてくれた。内容は当たり障りのないものではあったが質問をしてくれたという事は少なくとも興味は示してくれたのだろう。

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